報告レポート: アジアTYAネットワーク調査訪問 (シンガポール、クアラルンプールにて)
シンガポール
Kung Yu Liew26/12/16

2016112123

執筆者  Liew Kung YuKoe Gaik Cheng(マレーシア)

概要・背景

アジアTYAネットワーク第2段階のリサーチ場として、シンガポールとクアラルンプールが選ばれた。

このネットワークを拡大する、更なる可能性とその作品を学ぶ為、この2つの国から選ばれたTYAアーティスト達と会う事になった。

しかしこのレポートでは、20161121日から23までのシンガポールにおける調査訪問に焦点を当てている。

この調査訪問の枠を越えて、様々なTYAアーティストやシンガポール国内で活躍する業界関係者にも会う事が出来た。(the Esplanadethe Goodman Arts Centrethe Japan Creative CentreLASALLE College of the Artsといった機関の人々)

シンガポールの人口統計

シンガポールは多民族・多文化国家である。中国人系(76.2%)、先住民であるマレー人系(15%)、インド人系(7.4%)が人口の大半を占めている。

公用語はマレー語だが、仕事の際にメインとして使われているのは英語であり、教育現場で使われている言語も英語である。他の公用語としては、中国語(北京語)とタミル語が挙げられる。

1日目:20161121日(月)

1pm— Singapore Esplanadeにて

劇場情報:2002年開場。広さ60,000平方メートル(6.0ヘクタール)。

シンガポール川の河口近く、マリーナ・ベイに位置する芸術劇場である。

設備:コンサート・ホール(1,800席)、芸術劇場(2,000席)、リサイタル・スタジオ(245席)、演劇スタジオ(200席)

会った人達:

  • Chua Lik Ling(児童青少年向けプログラム・マネジメント代表)
  • Rachel Lim(プログラマー)
  • Glenda Ng(プログラマー)
  • Sofia Begum(プログラマー)

記録

  • Esplanadeの主要作品の1つに「PLAYTIME」という、感覚器官をフルに使いながら熱中できる、2から4歳の子供に向けた上演シリーズがある 。作品のいくつかは、地元の作家による物語を元に作られていて、大体の物語は、PIP’s PLAYBox(以下説明)の中で見つける事が出来る。
  • PIP’s PLAYBoxEsplanadeの中にある、読み聞かせから工作まで様々な体験が出来る、子供の為のスペースである。「PIP’s PLAYBox」という名前は、PIPという名前のペットキャラクターに由来する。このスペースは第一に、児童青少年観客のニーズを取り入れる為に作られた。障害を持つ子供の為の 設備が用意されており、例えば暗闇の劇場を怖がる子供には、劇場の外で作品をオンタイムで見る事の出来る場所が確保されている。
  • 「フィード・ユア・イマジネイション」(F.Y.Iでは、地元の芸術団体によって作られた演劇やダンス、音楽を小・中学生向けに上演している。芸術に関する知識を与えることで子供達の思考を誘発し、彼らに観客参加を促す事によって、子供達に学びを与える事が目的である。またそれぞれのF.Y.Iフォーマンスの中には、Esplanade劇場内のツアーも含まれている。F.Y.Iはアート教育の重要性と価値を主張しながら、子供達の独創力を発達させる為にナショナルアーツカウンシル・アーツエデュケーションプログラム(NAC–AEP)の一環として作られた。
  • PLAYTIME!とFYIの両方の作品において、先生が事前に生徒達と作品の内容について自由に話せるように、資料一式を用意している。演劇を通して、難しいテーマに子供達が触れる際に、この素晴らしいアイデアはかなり役に立つのではないかと思う。この資料一式とアクティビティ・パックは以下のサイトからダウンロード可能:https://www.esplanade.com/discover-and-learn/learning/2015-resources-for-teachers-and-students

 

2日目:20161122日(火)

10am – NAC ミーティング & Goodman Arts Centre

劇場情報:文化的に豊かなマウントバッテン地方の中に、7エーカーの芸術巣箱としてGoodman Arts Centreは佇んでいる。2011年の設立より、暖かく親密な雰囲気の中で芸術を体感する場として、アーティストや芸術に熱心な人、そして近所のコミュニティが集まる中心地として機能している。

設備:ブラック・ボックス、舞台小道具を作るワークショップ、会議室、多目的室、音楽スタジオ、プロジェクト・スタジオ、グリーンフィールド・モジュラー・スタジオ、野外の円形劇場

会った人達:

  • Kenneth Kwok(ナショナル・アーツ・カウンシル アーツ&ユース・計画戦略部ディレクター)
  • Aruna Johnson(ナショナル・アーツ・カウンシル アーツ&ユース・計画戦略部デピュティディレクタ ー)
  • Chua Jia Ling(ナショナル・アーツ・カウンシル アーツ&ユース・計画戦略部シニアマネジャー(幼稚園・保育園担当))
  • Mazlina(ナショナル・アーツ・カウンシル(演劇担当))

記録

  • アート教育プログラムArts Education Programme (AEP)下のアーティストやパフォーマンス・グループにより提案されたTYAプログラムを、ナショナル・アーツ・カウンシルが承認している。
  • 作品を観る為の課外授業を計画する際、AEPにより学校は助成される。この助成金はSingapore Turf Club(シンガポールターフクラブ)とSingapore Pools(シンガポール・プールズ)を運営する助成団体Tote Board」から支払われる。

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11am – Children’s Art Centre(子供のアートセンター)  (Goodman Arts Centre)

劇場情報:2017年オープンの為に作られたChildren’s Art Centre(子供のアート・センター)はGoodman Arts Centreの中にある、多目的ホールである。特徴として、屋内・屋外それぞれのエリアがある。

設備:屋内エリアには、以下の設備を備えた小さな演劇空間がある−−− 子供にとっては親しみやすい「ホワイト・ボックス」、授乳室、アーティスト用の小さな楽屋、展示エリアとして使用出来るモジュラープラットフォーム。屋外エリアには、子供達が自然エコシステムを観察出来るVertical Gardenと都会風のEdible Garden2つの庭園がある。

会った人達:

  • Luanne Poh(芸術監督)

記録

  • このアート・センターの目的は、特権階級層を始めとした、多くの子供達を幼齢の頃から芸術に触れさせる事である。11歳から15歳までの子供達は、ボランティアとして受付案内等で実際に働く事によって、有益な労働経験を得る事が出来る為、センターのプログラムに対する積極的な参加が促されている。
  • 公共交通機関から離れた郊外に位置するゆえ、商業的な場と張り合う事は、センターの意するところではない。その代わり、地元のアーティスト達に種を蒔く場所を与え、創造的なsandbox(砂場)として活用してもらう意図がある。センターは独立して創設されたゆえ、原則的にスペースは無料で提供される為、作品を初公開し、観客の反応を試すという点において、アーティストにとって魅力的な場所となっている。
  • Children’s Art Centreは子供の好奇心をそそり、その好奇心を表現する媒体としてアートを用い、そして子供の発育における芸術の価値を親に理解してもらえるような創造的なプログラムを、テーマとして屋外や自然を使いながら、発展させていくのだろう。

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1.30pm – Japan Creative Centre

劇場情報:シンガポールにあるJapan Creative Centre (JCC)は、日本の文化や技術に関する情報を広める為の基盤機関として機能している。

設備:多目的ホール(50席)、コンピュータとAV機器を兼ね備えた電子図書館、展示を目的とした展覧スペース。

会った人達:

  • Kazunori Matsunaga Japan Creative Centre副所長、一等書記官)

記録

  • JCCによって企画される様々なアウトリーチプログラム、シンガポールにおけるネットワーク・プログラム(特にシンガポール国際映画祭、シンガポール作家フェスティバル(Singapore Writers Festival)、シンガポール国際芸術祭)について、代理人が簡単に説明してくれた。

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3pm – シンガポールのTYAアーティスト(Goodman Arts Centre)

会った人達:

  • R. ChandranACT 3 Theatrics、芸術監督)
  • Catherine WongThe Theatre Practice、教育マネージャー)
  • Mr Jeffrey Tan(演出家・アーティスト)
  • Benjamin HoPaper Monkey Theatre、芸術監督)
  • Andy PangPaper Monkey Theatre、演出助手)
  • Chong Tze ChienThe Finger Players、代表)
  • Ian Loy(演出家)
  • Ma Gyap SenYoung People Performing Arts Ensemble、芸術監督)
  • Xiao JunYoung People Performing Arts Ensemble
  • Brian SaewardI Theatre、芸術監督)
  • Ruby Lim-YangACT 3 International、芸術監督)
  • LilianACT 3 International、カンパニー・マネージャー)

記録
- 参加者達はシンガポールにおけるTYA周辺の様々な問題やトピックについて議論していた。議論中に挙がったいくつかのキー・ポイントを以下に記す。

  • TYAアーティストは、児童青少年観客の知性を侮ってはならない。もし作品が児童の知性を助長するものであれば、彼らはより難しい問題をも理解しえるのである。
  • TYAに関わるカンパニーは、親とその子供を「一個の人間」として扱うよう努力するべきだ。このデジタル時代、親達は演劇を「1日保育」のように考え、自分達が他の事をしている間に子供達だけを劇場に預けるような傾向がある。その為カンパニーは、親と子供の両方が観劇し相互作用する事で、共に学べる事の出来る機会を作る努力をすべきである。
  • 多くの作品は利益を生む事が出来ず、金銭的援助が必要である。しかしシンガポールのTYA環境は、比較的多くの金銭的サポートを政府と社会基盤 から得られているという事実は、認めるべきところであろう。
  • 「違い」を目立たせるということではないが、子供達が将来に直面するであろう「違い」についての要素を作品に含み、彼らに提示する事は重要である。
  • 「エクスチェンジ」は「作品のエクスチェンジ」に限られるべきではない。むしろ「技術のエクスチェンジ」に対してのニーズがあり、それは「作品のエクスチェンジ」と同程度に必要でコストもそれ程かからない。(例:スピーチ、子供との創作、教育ワークショップ等)
  • TYAアーティストが直面しているユニークな問題として、シンガポールの教育機関が承認している英語や中国語(北京語)以外の言語での、作品上演の挑戦が挙げられる。言い換えるのであれば、学校は主に「生徒の言語運用能力を広げる」為に、課外授業として彼らを劇場に連れ出す。その時、もし作品で使用する言語が二ヶ国語だったり、もしくは生徒が知らない他の中国語の方言だった場合、彼らが作品を理解する事は難しく、先生にとっても、学校長に「なぜ生徒を劇場に連れ出さねばならないか」という説明をする事は困難になってしまう。
  • 親が作品を理解出来なかった為、「結局何についての作品だったのか」という問い合わせをしてくるケースが時々ある。親や先生に作品を理解してもらい、また子供達に作品の説明してもらう為に、「作品についての情報パック」や「先生の為のパック」を用意したりもする。

 

3日目:20161123日(水)


11.30am – シンガポールTYAリサーチ・ミーティング(STYAR)

会った人達:

  • Michelle Lim

記録

  • MichelleCaleb、そして2人のチームメイトは、人々、場所、政策をマッピングしたシンガポールでの第一段階のリサーチを共有した。
  • このリサーチはシンガポールの多文化背景についても掘り下げて調査されたので、その結果は英語を使う作品のみに留まらない。作品の鑑賞者における芸術の影響を分析する為に、更なる世論調査はLASELLEの二年生により実施される予定だ。
  • このリサーチの最終目標は、生徒達にTYAについてより理解を深めてもらい、更に1つのアート体系としてTYAを認識してもらうことにある。

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12.30pm – TYA教育ミーティングLASALLE College of the Artsにて)

会った人達:

  • Dr Amanda Morris(舞台芸術学部長)
  • Melissa Quek(舞踊・演劇学科長)
  • Matt Grey (舞台芸術学部プログラム・リーダー)

記録

  • 下山久(りっかりっか*フェスタ、芸術監督):
    「りっか*りっかフェスタ」は、アジアにおける最も重要なフェスティバルの1つだと認識されている。またこのフェスタは、TYAの東南アジアにおける演劇界の入り口としての可能性も有している。 TYAシンポジウムは以下の議題を論する為に開催された。
    a) ASEANにおける児童青少年の為に、TYAアーティストが出来る事、またはすべき事は何か。
    b)自分の国や地方だけではなく、あらゆる地域の子供達のパフォーマンスをより良くする為のアーティストの役割とは。
  • 地方で上演する作品の大きな課題の1つとして「言語の壁」が挙げられる為、ノン・バーバル(言語無)か多国語で上演する事で解決できるのでは。

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結論・Special Thanks

厳しいしつけで名高い小さな国でありながら、シンガポールは東南アジアにおけるTYA拠点地としての可能性を存分に見せてくれた。やがて急速にTYAを取り巻き、その観客達(児童青少年)を成長させていく役割を担う事になるだろう。

ここで私達のレポートを結論付けたい。

またこの場を借りて、感謝の気持ちを以下の人々に記す。

  • 下山久さん、宮内奈緒さん。(りっかりっか*フェスタ)
  • サカイ ユミさん(国際交流基金アジアセンター)このリサーチの実現に感謝します。
  • Caleb Lee シンガポールでのミーティング手配に感謝します。
  • シンガポールのTYA環境についての洞察やその経験を私達と共有してくれた、シンガポールのTYAアーティスト達と業界関係者の方々に感謝します。
Writer’s Profile
りっかりっか*フェスタ参加者
Kung Yu Liew
マレーシア
アーティスト
訪問した場所