アジアTYAネットワーク シンガポール/クアラルンプール訪問
シンガポール、マレーシア
Adjjima Na Patalung26/12/16

日程:2016年11月21~24日

訪問グループ

りっかりっか*フェスタ(日本) Hisashi Shimoyama・Nao Miyautchi

国際交流基金アジアセンター(日本) Yumi Sasaki

Little Door Festival(マレーシア) Liew Kung Yu(クアラルン プールコーディネーター) ・Gaik Cheng Koe

Lasalle College of Arts(シンガポール) Caleb Lee(シンガポール コーディネーター)

BIC Fest バンコク国際子供演劇フェスティバル(タイ): Adjjima Na Patalung

概略

今回のクアラルンプールとシンガポールへの訪問は、昨年7月沖縄で開催された、りっかりっか*フェスタ2016において8か国の専門家、クリエーターが集まった、第一回東南アジアTYA会議からの続きです。りっかりっか*フェスタと国際交流基金アジアセンターによって支援を受け始められたこの訪問は、前の会議からの延長上にあります。というのも日本、マレーシア、シンガポール、タイにおける既存の、あるいは新しいTYA国際フェスティバルにとって、出会いの機会であるばかりでなく、東南アジアTYAの将来の発展のための意見交換の場となるからです。のみならず、シンガポールでの芸術と教育の現場で既に活発に機能し、TYAの新たなプログラムも展開している組織や団体との関係づくりでもあります。また、さまざまな会場やアートスペース、両国内で活発に活動している現地のTYAアーティストや専門家に出会う機会ともなりました。今回の訪問は前向きな可能性に富んだ実りあるものでした。

この経験はタイからフェスティバル主催者として参加した私に、隣接する二つの国のTYAを取り巻く最新状況、進展、傾向や活動状況について多くの情報を与えてくれました。

私の報告書は大まかな概略と、私自身の個人的な体験報告になります。タイの新しいフェスティバルの代表者としてこの旅行に参加できて光栄でした。

シンガポール:

シンガポールにおいて、TYAがいかに先進的に発展しているかを目のあたりにして感激しました。芸術と文化にとって、行政による支援と投資が、同時代芸術の発展や伝統文化の維持に、多大な影響力を持つ鍵であるという考えを強固にしました。シンガポールはハイテクで高水準な設備を持つ芸術施設が良く配備され、TYAに特化して活動する熟練の芸術家、専門家、研究者といった人材も揃っています。

私達の訪問先:

1. The Esplanade エスプラナード 児童・青少年部門

部長のChua Lik Ling氏とメンバーの方々にお会いしました。座談会の前にエスプラナードの音楽堂、アトリエ、様々な設備、屋外空間をガイド付きで見学、部門の仕事内容について説明を受けました。

 The Esplanadeはすばらしい施設です。ダンス公演、オペラ、コンサートなど芸術鑑賞に適した劇場、音楽堂があり、加えて実験的な公演も可能なフリンジ向きの新しい会場もあります。PLAYboxは子供のための創造活動や公演用に作られたアートスペースです。

児童・青少年部門は強力になり、特に2~16歳に分類される年齢層の青少年とその家族向けのプログラムを展開しています。地域の観客とアーティストの発展に重点的に焦点をおき、台本作りの支援、その土地の物語を用いることを奨励しています。またいくつかのプログラムの中には、海外アーティストとの共同創作の機会もあります。

  • Playtime「遊びの時間」(2~4歳向け)は年に3回開催。このプログラムのために奨励している作品は、観客巻き込み型で、観客との一体感があるもの、その土地を背景にしたあるいはその土地の物語を使用している独自な作品、対話形式のものであることが多い。知覚、感覚的な遊びが中心。創造的な環境の育成と、地域のアーティストの発育をめざす。
  • Feed your imagination「想像力を育てよう」(7~15歳向け)地域に根差す芸術団体による小中学生に向けた上演。音楽会、ダンス、演劇。芸術に関する知識を与えながら教育するプログラム。学校の履修課程、民族学的芸術、市民権、社会問題に答えていく。それは子供たちにとって、個性の発育、主体性、個々の発達に関わることです。メンバーは150の小学校および150の中学校と実践しています。公演の前後に使用できる補助教材は事前に先生に配布、生徒たちにも活用できる教材を用意します。
  • Octoburst!「オクトバースト!」はエスプラナード独自の子供と家族のための催しで、遊ぶこと、家族で楽しむことを奨励しています。プログラムには、演劇、ダンス、地域文化に関連した創造活動やファインアートも含まれます。

The EsplanadeはNational Arts Councilからの支援も受け、いくつかのプログラムを無料にしています。

2.National Arts Council of Singapore (NAC)

Arts & Youth代表 のKenneth Kwok氏と、副代表のAruna Johnson氏、Youth Arts Centre演劇部門と、新しい児童芸術センターのArt Groundのメンバーと会見しました。またTYAの芸術的発展を重要視することから、教育現場における芸術もまたNACの活動の大きな部分を占めています。特定の地域と関係のある作品に対する意識を高めること、ごく若年層から観客を作ること、子供の発達にとって芸術が大切であるという意識を高めることが目的です。NACは地域のアーティストにArt Centreの貨しスタジオの空間を提供しました、使用料の80~90%は助成金で賄われ、賃貸借契約は、三年に一度見直しを行います。

The Youth Arts Centreはあらゆる芸術形態と活動します。舞台芸術の範疇から作品を推薦し、芸術家を学校へ連れて行き、学校でより長期的に、踏み込んだ活動ができるようにする。保育園や幼児期(3~6歳)の子供のためのプログラムも企画推進します。またThe Youth Arts Centre は地域のTYA演劇制作者を奨励し、2001年より毎年、“最優秀作品賞”を設けています。

演劇部門の活動には、分野別に開発も行います:人形製作、マンダリン語(中国共通語)演劇、ミュージカル、子供のための演劇を始めたばかりのグループ、それらはごく小さな幼児の為の、言葉を用いないパフォーマンスに的を絞っています。NACの仲間と地元のまたは海外アーティストは過去にMakhampon(タイ)とPETA(フィリピン)と協力してワークショップを行っています。

期待の新しい空間、Art Groundは、沖縄での第一回東南アジアTYA会議に出席し、その後The EsplanadeのArts and Youth Department 部長のLuanne Pohによって運営されます。こちらは2017年6月~7月にオープンします。子供を中心に考えた空間は、若者にも年配者にとっても、探求と実験が可能なこれまでにない遊び場となるでしょう。しかも使用料は無料。いくつかのプログラムはチケットを発行するでしょう。そして芸術家にとっての活動の場ともなるでしょう。

Art Groundは多目的ホールとして使える10×20mの室内空間で、50~80人の子供が入れる白い空間です。近くで鑑賞することが可能な展示会場としても使えるでしょう。子供たちが探検したり実験したりして、自然から学びとれるための屋外空間もあります。環境保全型の、生態系を破壊しないライフスタイルを子供たちに教育することを目指し、子供たちの好奇心を養い、家庭にもどって実践してみたいという関心をもたせる。戦略として、Festival ambassadors(催事大使)という任務があります。行政のサービスが十分でない地域や低所得層の対応にあたる役目として創設されました。11~15歳の若者がとても若いうちから芸術を通して、奉仕することを学びます。年四回蚤の市が開催され、芸術を作って売るという体験をする若者を集めます。子供たちは芸術がどのような働きをするのかを理解し、芸術は単なる概念ではなく、私達の人生を支える役割を持っているのだということを理解するでしょう。

Art Groundでの音楽、ダンス、演劇のプログラムは、子供たちに関係のある物から創造され企画されます。スペースは試験的に使える舞台であり、芸術家のワークインプログレス(中間発表)でアイデアを試す手助けをします。そこで彼らは観客の意見や感想を得ることができます、子供審査員のようなものです。協力して一緒に作品づくりをする場が開かれています。

3. Lasalle College of Arts舞台芸術学部

Amanda Morris学部長と、彼女のチームの方々にお目に掛かりました。シンガポール訪問のコーディネーターであるCaleb Lee氏も講演されました。Caleb氏は我々に大学構内を見せてくださいました。舞台のある講堂、ブラックボックスのスタジオはどちらも専門的に見ても設備がよく整い、学生たちは技術者に手伝ってもらい学ぶことができます。

この学部は既にTYAに関心を持ち、関連プログラムにも着手しています。学生が企画を立てて学校に提案するという、Diploma in Theatre Developmentがそれです。将来的な共同作業の可能性を話し合う中で、規模の大小も様々なたくさんのアイデアが交換されましたが、2017年に何ができるかを考えると、小規模な討論会からでも始めればよいのではないかと思います。TYAの専門家が国際的に集まり、それぞれの国におけるTYAの現状を報告し話し合うための公開討論会(シンポジウム)の発足について意見を出し合いました。提案のあった話題は、アジアの国々で、子供時代の展望を変革していこうというものでした。

我々はより大きな計画について話し合いました。アジア各地の大学がTYAについて論議を始めたらどうか、また劇団をLa Salleに招き入れ、学生と一緒に作品をつくり、巡回上演するなど。La Salleは学生をさまざまな方法で参加させ、国際的な繋がりと、機会を育てることに力を注いでいます。

4.Michele Lim氏 フリーの専門家

Michelとの会合は、TYAの発展においてシンガポールがどれ程既に進歩的であるかを知ることができ、刺激的なものでした。Michelは<Centre 42>でマネージャー及びコンサルタントとして活動しています。彼女の仕事はシンガポールにおいて演劇教育の有用性を広く理解させ、演劇教育者を育成することにあります。またCalebと共に、3~12歳を対象としたASSITEJの演劇芸術に限定して、シンガポールのTYAに関する情報を文書化し、場所や方針について人々の調査を始めています。もう一つの計画は、演劇的な体験や記憶についてのアンケート調査結果を観客に研究してもらい、TYAを研究部門としても見てもらえるようにすることです。次の段階では、演劇芸術会議を発足させる、意見交換の推進、調査結果の共有、研究方法論の試行などがあります。2017年の予定としては、政策決定者および従事者と、意見交換し関係を築くこと。(政策決定者には)より良い意思決定のための情報を、(従事者には)事業の反響を提供していきます。調査報告書は生きた情報としてアーティストの芸術活動の糧となり、芸術作品のデータバンクとなるでしょう。

5.地域の専門家への紹介

CalebはTYAに特化して活動しているアーティスト及び集団の大半と、彼らの作っている大人向けの演劇、および制作中のTYA向け作品とを同時に、巧みに一堂に集めています。

私達は2つのフェスティバルに出会いました。経験豊富なAct 3 Theatre はもとより、青少年向けの小規模な国際演劇祭であるACT 3 internationalと、シンガポールにおける中国文化を重視したフェスティバルをプロデュースしているThong Pei Qinです。参加団体は、I Theatre、 Paper Monkeys Theatre(以前タイの人形作家と共同創作をしていた人形作家のBenjamin Ho)、The Finger Players、The Theatre Practice、The Young People Performing Arts Ensemble(YPPAE)と、個人参加のIan Loy とJeffrey Tangです。

実演者の方々やEsplanadeの制作者と会見し、私自身の目から見て、シンガポールTYAの作品は以下のように分類できるでしょう。

- ノンヴァーバル(言葉を用いない)知覚に訴える、身体的/視覚的な演劇

- 英語で語られる物語(よく知られた物話の翻案、おとぎ話や新作)

- 人形劇またはオブジェクトシアター

- 伝統遺産、中国語、地域文化に影響を受けた改作、伝説、(インド、マレー、中国地方の)物語

6.Japan Creative Centre(JCC) 在シンガポール日本大使館

副館長、第一秘書のKazunori Matsunaga 氏と会見。日本語、日本文化圏外でのJCCの活動について紹介してもらいました。JCCには展示室や、ワークショップ、文化活動のための部屋が設けられ、企画運営されています。施設は様々な催事を共催したり、日本人アーティスト、シンガポール現地での日本人の活動を支援しています。

クアラルンプール訪問

 クアラルンプールへの訪問は発見の多いものでした。この都市を訪れたのは私にとって初めてでしたが、都市の風景から、クアラルンプールとバンコクとの多くの類似点を見ることができました。それはまた、二つの都市の芸術文化の発展における類似性を示すものでもあります。到着前、私は(クアラルンプール訪問のコーディネーターでもある)Littledoor FestivalのLiew Kung Yu氏と、我々の自国におけるTYAの状況について話しました。資金や公的支援の不足についてや、観客を育てる必要性、自国のアーティストをもっと育成し国際的な活動に接する機会をつくる必要性について話し合いました。下山氏とは、TYAのための国際的なフェスティバルの重要性を強調されていた点、同感でした。なぜなら、それが子供たちの幸福と、舞台芸術を通して子供を育んでいくという根本的な目標と並行して、TYAの発展を促し、豊かなものにしていくひとつの方法であるからです。

私達の訪問先:

1.Kuala Lumpur Performing Arts Centre (KLPac)

劇団の舞台監督である、Lawrence Selvaraj氏に施設について紹介してもらいました。ここは住宅開発地域内にあり、公的交通手段でアクセスが容易です。古い鉄道倉庫を改装した建物は美しい景観です。KLPacを運営している方々は以前The Actor’s Studioという名の劇場を運営していたメンバーです。KLPacはプロセニアムのある大劇場と、ブラックボックス、映写室と9つの練習室を持つ、いろいろな可能性のあるすばらしい施設です。様々な企画提案を受け入れており、非営利団体にはレンタル料の減額措置もあります。

2.HongJieJie Work Station

百貨店の中にこじんまりとした小劇場があります。着想は劇場を家庭に持っていく、週末の買い物を楽しむ人たちを観客として引き寄せる、です。タイでも非常に似た現象が起きています。ショッピングモールは、都市に住む人々が大部分の時間を費やす場所となり、都合のよい場所と思われています。したがって様々な事業が参入しています。この方法は芸術を人々に届ける一策ではあると思いますが、都市の中心部に、ショッピングモールよりもむしろ芸術複合施設を多くつくる方がより良い選択だと考えます。

設立者のLinda Ang氏、所長をはじめとする、劇作家、デザイナーの若いチームと会いました。若いメンバーの情熱と熱意にとても感心しました。彼らの仕事は中国系コミュニティを対象として、作品は、言葉と文化を保存し大切に考える方向で、主に中国語で上演されています。ここでは主催公演のほかに、他劇団の公演も制作、またスタジオ公演に劇団を招待もします。もちろん共同制作もあります。ここで成功した公演は、Hong Jie Jieという一連の作品で、一人の女の子が、子供と一緒に問題を解決していくというものです。すでに12シリーズが上演されました。

年齢層は4~6歳または7~12歳です。休暇の間には、演技術、シアターゲームなどを使ったワークショップやシアターキャンプを行っています。それが主な収入源となっています。また、学校公演の巡回も行っています。

3.国際交流基金(日本)クアラルンプール支局での現地TYA関係者とのミーティング

国際交流基金クアラルンプール支局は協力的に会合を主催してくださいました。現地支局長およびスタッフ、現地を活動拠点とするTYA関係者また組織との顔合わせをしていただきました。

- Toccata studioが設立者でクリエイティブ・プロデューサーの、Tan E janによって紹介されました。Toccataは音楽とダンスの分野で創作を行っていますが、貸スペースや宿泊研修プログラム、ワークショップの運営も行います。教育福祉活動の一端として合宿も行います。企画のいくつかは、子供たちに焦点が置かれています。

-Rhapsody Gamelan Ensembleは、ガムランに情熱を燃やす若者の一座です。全体のコンセプトとしては、若者に向けて文化というものを具体的に身体的に表現すること。独創的な新作づくりによって、伝統的な楽器の使用を現代化する、これまでと違った楽器の使い方をしてみるといったようなことです。決めるのは子供たちです。彼らはツアーを行い、ワークショップや宿泊研修も行います。

- Think Cityは地域に根差し、都市再生をめざす非営利団体です。彼らはもっと住みやすいクアラルンプールをめざし、内容のある、創造性豊かな、活気ある都市づくりを目標にしています。観客に芸術、文化を鑑賞する力をつけるということも。毎年12月に街をより良くすると期待できる企画に補助金を出しています。Arts on the MoveはThink Cityによって進められている公共プログラムで、クアラルンプールの鉄道交通網に、芸術文化的活動を盛り込もうという構想です。

訪問はとても実り多いものでした。近い将来、確実な成果を生むことになると私は信じます。少なくとも、計画の蒔かれた種は養われ、私たちはつながりを持てたのですから。多くのテーマがさらに進んで話し合われるでしょう。創作活動とTYAの教育活動との協力、TYA専門家、従事者の可動性と東南アジアにおける潜在的観客の動き、またどのようにTYAのフェスティバル、地域活動、文化面の経済的な維持を生み出していくか、など。

感想

旅は、今段階では東南アジア本土南部の三ヵ国だけに焦点を絞ったものでしたが、地域の中に既に異なった文化を生むことになりました。東南アジア本土は、あるいはインド-中国半島の、という言い方ができるならば、概してインドおよび中国からの共通の文化的影響

を受けています。しかしながら、インド-中国半島を北部、南部に分けたとしたら(タイが真ん中で二分されますが)、それぞれは政治的な歴史もふくめてその土地固有に分配された文化と伝統を持つに至りました。これらの側面は芸術と文化において大きな役目を担っていました。

TYAについてではなく、地域において上演された作品の種類やプログラムの編成から見てということです。それぞれの文化的、政治的背景は、私が思うに、この地域の国々が協力して東南アジアTYAの力強い未来を育てていくための、わくわくするような可能性を切り開いてくれるでしょう。

Writer’s Profile
りっかりっか*フェスタ参加者
Adjjima Na Patalung
タイ
フェスティバルディレクター
BICT Fest
訪問した場所