りっかりっかフェスタ
ACO沖縄と国際交流基金アジアセンターの共催によるりっかりっかフェスタは、児童・青少年のための演劇作品を対象に毎年開催されています。2016年は、日本・ベルギー友好記念の一環として特にベルギーTYAに関係するヨーロッパ諸国の劇団を中心として、
各国からさまざまな作品を招聘して7月の約1ヶ月間にわたって開催されました。ストレート・プレイ、仕掛けのある作品、歌や踊り、また儀式、ムーブメント、マイム、サーカスなど(そしてその組み合わせ)を含むノン・バーバル作品など、多種多様な作品が上演されました。作品はどれも、児童・青少年のための演劇という概念の「限界を押し広げる」、また「再定義する」もので、新旧幅広い観客層に開かれたものでした。
そして本年、私は幸運にも、ACO沖縄と国際交流基金アジアセンターのお招きにより、アジアTYAネットワークにおいてTanghalang Pilipino代表として同劇団の作品を紹介するとともに、Ness Roque-Lumbresさん(Sipat Lawin Ensemble)、Sigmund Pechoさん(Teatrong Mulat ng Pilipinas)、Teta Tulayさん(Anino Shadowplay Collective)とともにフィリピン代表団の一員として、フィリピンにおけるTYAの現状と実施についての議論に参加する機会をいただきました。
フェスティバル内容
公演とキュレート作品
全31作品中、今回のフェスティバルで観劇することができたのは以下の13作品でした。
『おやすみなさい』(シアター・トレ、スウェーデン)、『黄色いクツ下の夢』(ダリア・アチン・テランダー、セルビア・スウェーデン)、『小さな紳士』(ACO沖縄、アジア共同作品)、『ノクス』(ラヌー・テアトル、ベルギー)、『レオの小さなトランク』(Y2Dプロダクションズ、ドイツ・カナダ)、『かわいそうな象』(人形劇団ひとみ座、日本)、『ア・マノ』(エル・パティオ・テアトル、スペイン)、『沖縄燦々』(ACO沖縄、日本)、『ロウ〜小さな魂〜』(キャビネットK、ベルギー)、『レ・ミゼラブル』(ACO沖縄、日本)、『寿歌』(劇団東京乾電池、日本)、『恋口説』(ACO沖縄、日本)、『わかったさんのクッキー』(KAAT神奈川芸術劇場、日本)
この13作品のうち最も印象に残ったのは、『わかったさんのクッキー』(KAAT神奈川芸術劇場、日本)と『寿歌』(劇団東京乾電池、日本)の2作品でした。どちらも日本語の公演で、翻訳は提供されませんでした。にもかかわらず、いずれの作品も、明確なビジュアル(セット、衣装、小道具)、演者による効果的な演技(表情、素晴らしいアンサンブル)、卓越した演出(さまざまな舞台要素がよくまとめられており、非常に明確なコンセプトを持って脚本が舞台上に表現されていた)によってストーリーを物語ることに成功していました。
この2作品、そして『レオの小さなトランク』(Y2Dプロダクションズ、ドイツ・カナダ)と『ロウ〜小さな魂〜』(キャビネットK、ベルギー)が、りっかりっかフェスタそのものを体現しています。りっかりっかフェスタは、年若の(そして年長の)観客に、人間の多種多様な感情と感性に触れ学ぶ機会を、演劇作品をとおして与えるための手段なのです。多岐にわたる公演作品の中には、観客が子供になって遊び、演じ、考えることが求められる作品もあれば、戦争や死、破壊、再生などのテーマについて批判的に思考することが求められる作品、そして常識の枠を飛び出し、想像を超えて考えることが求められる作品もありました。
アジアTYAプログラム
りっかりっかフェスタでは今年、フェスティバルの一環として、ACO沖縄と国際交流基金アジアセンターの共催によりアジアTYAフォーラムが開催されました。このフォーラムは、東南アジア諸国とその他のフェスティバル参加国の間での対話と協力を促進すると同時に、そこで生まれる文化的対話を継続し、東南アジアのTYA実践が各地域でどのように行われているかを把握し、(ある意味では)社会文化的な理解を形作ることを目的として実施されました。
アジアTYAプログラムは、アジアTYAネットワーキングとアジアTYAオープン・フォーラムの2部で構成されました。
アジアTYAネットワーキング
アジアTYAネットワークプログラムの後半に、アジアTYAネットワーキングが簡単に行われ、各代表者がそれぞれの劇団のプロフィールと各自のTYA活動について、4分間のプレゼンテーションを行い、自分たちの劇団について紹介しました。私が代表するTanghalang Pilipino Foundation Inc(TP)は、他国のほとんどの参加劇団とは異なり、子供のための作品の制作および公演に特化しているわけではありません。実際のところ、TPの作品のほとんどは、フィリピンのシニア・ハイスクールの生徒、大学生、社会人、アーティストなど、若年層と大人の観客を対象としています。むしろTPによるTYA活動の強みは、コミュニティーでの演劇ワークショップや公演などの観客開発活動、そしてユニセフ・フィリピンなどの非政府組織(NGO)との協力のもと実施している「発展のための演劇(theater for development、T4D)」活動などにあります。
アーティストとして、各劇団のプロフィールと活動について、また各々が児童・青少年のための演劇を自国で促進するためにどのような活動をしているのか、そしてなにより、それをTPとフィリピン全体のTYAの実践にどのように関連づけていくことができるかを学ぶことができ、興味深く感じました。また、フォーラムに参加したほとんどの劇団がTYA作品の制作に力を入れていること、TYA作品に焦点を当てたフェスティバルが東南アジアで数多く開催されていることを知ることができただけでも、素晴らしい体験でした。東南アジア地域でTYAに対する関心が高まっており、東南アジア、アジア全体、そして世界各地でTYAを実践する劇団や組織、個人のあいだでコラボレーションや交流を実施できる可能性も大いにあることがわかりました。
アジアTYAオープン・フォーラム
アジアTYAプログラムの第一部、アジアTYAオープン・フォーラムは、私にとって最も意義深い体験の一つとなりました。このフォーラムでは、参加者がアジアにおけるTYAの潮流や、特筆すべき新しい実例、課題、またTYAの実践を継続し強化していくための提案などについて話し合いました。
話し合いの中で挙がった課題として、以下のものがありました。
金銭的・資金的な支援
作品の質と利益
ネガティブなイメージと境界線
アクセシビリティと観客開発
まとめ
私たちはアーティストとして、またコミュニティー・ワーカーとして、児童・青少年、そして幅広い年齢と文化を持つ観客の感性を豊かにしていくために、積極的に、継続して作品制作と公演を行っていく責任があります。
りっかりっかフェスタのようなフェスティバルは、世界中のコミュニティーや個人にとって共通の価値観をテーマとした、多種多様な形式や規模の作品を観客に届けるという、極めて重要な役割と責任を担っています。
こうしたフェスティバルのおかげで、アーティストと観客は公演と交流を通じて文化とつながり、互いに学び合って、その経験から自らを成長させていくことができます。フェスティバルが対話とアーティスト同士の交流の基盤となって、新しい作品のアイディアが生まれ、新しい友情が始まり、コラボレーションや共同制作、ネットワーク構築を通してTYAの未来が築かれていくのです。
追記
児童・青少年のための演劇について
りっかりっかフェスタおよび児童・青少年のための演劇に分類される作品群から、私はこの分野について多くのことを学びました。
まず、TYAは子供や10代の若者のためだけのものではなく、すべての年齢の人が楽しみ、参加することができるものであるということです。下山さんがおっしゃったとおり、「大人が楽しめない作品を、子供(児童・青少年)が楽しむわけがない」のです。
より重要なのは、児童・青少年のための作品を創っていく上で鍵となるのは、子供達を過度に守ろうとするのではなく、フェスティバル中に下山さんが言われたように、彼らに「あらゆる感情を浴びせかけること」であり、「感性は栄養を与えなければ育たない」ということです。若い観客を演劇作品に触れさせることで、彼らを個人として磨き上げ、創造性と批判的思考を育て、テレビや映画の向こうにある世界へと彼らを旅立たせ、冒険に送り出すことができます。
もう一つ、りっかりっかフェスタは、創造のプロセスにおけるコミュニティーの重要性を思い出させてくれました。舞台演劇はコミュニティーに属するものであり、演劇作品を通して親子が同じ感情や体験を共有することができるのです。
最後に、東南アジアの児童・青少年のための作品を創る上で今後私を突き動かしていくであろう課題が二つあります。
「アジアの子供たちのために、何ができるか」
「子供達、特にアジアの子供たちに、どのような種類の作品を見せていくのか」
持続可能性
りっかりっかフェスタ後、金銭的利益を超えて、教育と社会的変革、対象となる観客に直接関係のある、意義のある作品の創造を目的とした持続可能なシステム(生態系)を創る一助となることが、私たちの役割となりました。続けること、交流と対話、コラボレーションを継続することが、私たちの務めです。
Hazel Joy R. Gutierrez
Resident Production Manager
Tanghalang Pilipino Foundation, Inc.
フィリピン