考察とフィードバック

このプログラムは、アジアのTYAを発展させるために、知識や資源、実践を共有し、協働し、お互いに支え合うための安全なスペースである。
Abigail Huan (シンガポール)

 アジアTYAネットワークプログラムに今年初めて参加し、いかにこのプログラムがよく考えられているかということに心から感銘を受けた。個人的に、何年かをかけて調整を重ね、参加者のニーズに完璧にこたえられるように特別に作られたプログラムであると感じた。唯一ほとんどの参加者が懸念していたことは、来年度の助成金が取れる保証がないというところで、このプログラムが今後継続していけるのかどうかということであった。それでも、プログラム参加者がネットワーキングを行い、長期的な視野でこのプログラムを継続していく可能性について話し合うための十分な時間が与えられた。参加者はこういったプログラムの重要性を強く感じ、来年以降もプログラムを計画し、続けていくために、皆が自分自身の資源を共有していくことを確認しあった。

今年のプログラムは以下の3つのセクションに分けられた。

 1)ネットワーキングと実践の共有

 2)公演鑑賞

 3)ポストショーディスカッションと考察のためのセッション

1)ネットワーキングと実践の共有

 団体やフェスティバルによって、さまざまな実践が行われていることを共有した。ファンドレイジングや”フレンドレイジング”の方法について話したことを通して、アジアの国々がさまざまな助成金のシステムを持っていることを知るのは興味深かった。フレンドレイジングはYATTAのNikkiによって挙げられた言葉で、彼らのプロジェクトを実現していくためには、さまざまな団体と友達になることが不可欠であるということを共有してくれた。他の多くの参加者も、それぞれの国で同様のアプローチを行なっており、この言葉は非常に的確であると感じた。

 Nguyen Hoa My(ベトナム)、Ruth Pongstaphone(タイ)、Nang Yadanar Soe(ミャンマー)、Sokny Onn(カンボジア)がアジアにおける社会変革のためのTYAの活動におけるそれぞれの実践やコンテキストを共有するという、社会変革のためのTYAにフォーカスしたセッションがあった。特に心に残ったのが、Soknyのインクルーシブアート団体Epic Artsについてのプレゼンテーションだった。カンボジアの人々が障がいについて持っている考え方に驚いた。人々は、障がいを持って生まれてくるのは、前世の悪い行いの報いであると考えているという。しかし、Epic Artsでは芸術を通して、障がいを別の才能であるという考え方に変えていっているということに本当に感動した。この考え方は、後に行われたSoknyのワークショップでより確かなものとして感じることができた。そのワークショップでは、それぞれが歩いたり、手を叩いたり、寝たり、身体を感じたりするさまざまな方法を考えさせられ、さまざまな機能の仕方があることを感じることを通して、ユニークであることは劣っているということではないということを認識した。

2)公演鑑賞

 プログラムの一環として、私たちはスコットランド、ロシア、デンマーク、韓国、日本などからのたくさんの作品を鑑賞した。フェスティバルに参加したたくさんの良い作品があったが、特に心に残っているのはシージャーダンスプロジェクトによる『空に溶けゆく言葉のかけら』であった。これは沖縄で生まれ育ち、子どものころに沖縄戦を経験した年配の女性たちについての作品で、女性たちは記憶に残っている自分たち自身の本当の声を織り交ぜながら、自身の沖縄戦の体験を表現した。このパフォーマンスは、一人の年配のパフォーマーの戦争体験から作られた。沖縄の年配の方たちが過去の辛い体験を、自信を持って、また楽しんでパフォーマンスしていることに心から感動した。ポストショーディスカッションで、辛い記憶の中に安らぎを見つけることは彼女たち自身にとっても癒しの体験になったということが共有された。非常に誠実な作品で、この作品を体験できたことを非常にありがたく思っている。

3)ポストショーディスカッションと考察のためのセッション

 これらのセッションは、作品の創作プロセスについて聞ける特に学ぶことの多いものだった。また、小さなグループで考察のためのディスカッションも行い、異なる背景を持つ参加者の作品についてのさまざまな視点を知ることができた。これによって、作品を観るうえでさまざまなレンズがあるのだという認識を高められた。また、このプログラムが、私たちが作品についての感想を共有し、お互いに学び合うことができる安全な空間を作ってくれたことはとても良かったと思う。

 最後に、このネットワークはアジア地域の、特に発展途上の地域のTYA実践家が他の実践家に出会い、自分たちの地域で行なっている活動において孤立感を感じないようにするために非常に重要なものであると感じている。このプログラムは、アジアのTYAを発展させるために、知識や資源、実践を共有し、協働し、お互いに支え合うための安全なスペースである。このプログラムに参加し、その価値を体験させてくれたことに感謝したい。これからアジアTYAネットワークが続いていくことを楽しみにしている。

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Asian TYA Network
Abigail Huan
シンガポール
Five Stones Theatre
共同芸術監督