アジアTYAネットワークプログラム2018 参加報告書

時代や社会状況に即して、児童青少年に本当に必要な芸術体験の質的向上を追求し続けることが重要なのだろう。
佐野 晶子 (日本)

2018 年7月21日から10日間、国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわ(りっかりっか*フェスタ)開催期間中に実施される「アジアTYAネットワークプログラム」に参加の機会をいただいた。このプログラムは国際交流基金アジアセンターの助成を受け、フェスティバル主催者でもある一般社団法人エーシーオー沖縄が企画・運営しているもので、ASEANを中心に11ヵ国の児童・青少年演劇や障害児・者の舞台芸術活動に携わるメンバー15名が集っていた。10日間のプログラムは大変充実しており、各参加者の活動紹介プレゼンテーションから始まり、りっかりっか*フェスタの主催公演の鑑賞とアーティスト・トーク、作品についての参加者同士の意見交換が日々行われた。また、テーマを定めた3回の集中ディスカッション(ワークショップ形式で進められる)や2回のシンポジウム聴講、2018年にりっかりっか*フェスタで集中的に上演されたスコットランドの関係者とのミーティングなども行われた。

 このプログラムに参加し特に印象深かったのは、アジア各国における文化政策や現場の状況の多様さを知ったことである。ミャンマーやカンボジアでは文化政策と呼べるものが未だ存在せず、文化芸術活動に対して政府予算がつくことはないため、現状は英国など海外資金に頼って活動していることや、フィリピンなど国レベルでは国立劇場などを通じて文化芸術振興が行われていても、地方都市にまでは予算がまわらないこと(それでも劇団専業の制作スタッフがいること)、タイ・バンコクでは現代演劇シーンが活況を呈しており(日本を追い越すほどの勢いがあるが)、その分劇場が不足し児童・青少年演劇フェスティバルの会場に困っていること、インドネシアでは火山噴火の被災地で土着性を重視したフェスティバルが開催されていること、中国をはじめとする政府による検閲の問題等について知ることとなった。日本の児童・青少年劇団の活動が1960年代から政府による委託事業として主に学校で上演されてきた歴史に比して(当時から非営利の法人格を有する協会を結成していたため受託できたとのこと)、アジアのTYAは、制度上は発展途上にあると言えるかも知れない。一方で、TYAが保護され制度化されたとして、そのことによって生じるかもしれない固定化などの問題も考え合わせると、単に発展途上とみなすことにも違和感を覚えた。経済面を言えば時間の問題であり、やはり時代や社会状況に即して、児童青少年に本当に必要な芸術体験の質的向上を追求し続けることが重要なのだろう。そういう意味でも、りっかりっか*フェスタの演目が常に非常に高いクオリティを備えていたことは、創造性を高める上で大いに刺激となった。

参加者は皆、各国におけるTYAのパイオニアであり、だからこそ国や言語の壁を超え、国際的なプログラムに参加することで同志とつながることを欲していた。(余談だが、ミャンマーから参加していた若い教師のNang Yadanar Soe氏は、来日前にほんの数か月英語を勉強、しかも独学で十分にコミュニケーションを取っていたことには心底驚かされた)。欧米に現代舞台芸術のサーキットがあるように(各地の劇場やフェスティバルのプレゼンターが国や地域を超えてネットワークを築き、作品を流通させている)、アジアがTYAで面的なネットワークを築き、さまざまな資本を共有してモビリティを高め、同時にアジアの固有性を守りリテラシーを向上させていくような動きにつなげることが可能なのではないだろうか。その核となる熱意溢れる人材がこのプログラムには結集していたはずであり、刺激的な出会いに感謝しつつ、今後は日本のTYAを志す若い演劇関係者への情報提供や、アジアの関係者とのネットワーキングに貢献できればと考えている。

最後に、お世話になりました下山様、宮内様をはじめとする関係者の皆様、貴重な機会を頂戴し、ありがとうございました。

Asian TYA Network
佐野 晶子
Shoko Sano
日本
Performing Arts Advisor
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