アジアTYAネットワークレポート

このネットワークは、私がフィリピンで行なっていることを肯定してくれた。
Nikki (Ricky) Nelson Cimafranca (フィリピン)

アーティストとして、文化に関わるものとして、私は常に新しい学びやアイディアを求めている。日本での文化交流は、私を完全に豊かにし、満足させてくれた。フィリピン人として、ドゥマゲテ市の団体YATTA (Youth Advocates Through Theater Arts)のメンバーとして、 私はいつも私たちが”PAGASA”もしくは”OAO”と呼ぶ枠組みによって指導されて来た。このフェスティバルを経験したことは、この構造が意味のある質の高い作品を創作する上でいかに重要なものであるかに新しい光をあててくれた。

”OAO”の3つめのOは団体(Organisation)であり、これは”PAGASA”のSA=SArili/自身、SAmahan/他者にあたる。フェスティバルディレクターたちとのさまざまな対話を通して、子どもたちのためのフェスティバルを運営するということについて、またそれが文化の発展と芸術を楽しんでもらうことにおいていかに重要かとより理解することができた。フェスティバル自体も非常によく企画されたものだった。チームメンバーそれぞれが、このイベントを成功させるために一生懸命働いているのがよくわかった。自分もグループの主催として、活発に国際的な演劇イベントをいつか行っていきたいと思っている。

フェスティバルの運営を観察し、もうひとつ気づいたのはいかに若い人たちを巻き込むことに成功しているかということだ。特に記憶にのこったのが、中国から参加していたJuneとLinだ。彼らは公演をしっかり鑑賞し、子どもとは思えないような質問を投げかけていた。未来について大きな楽しみと希望を与えてくれた。りっかりっか*フェスタのようなイベントに、もっと多くの子どもたちが参加していける機会があれば良いと思う。

”OAO”のAは芸術性を意味し、”PAGASA”のGA=GAling(スキル)、GAwa(アクション)に対応する。作品を鑑賞し、多くの作品が本当に慎重に創作されていることを感じた。ほとんどの作品がノンバーバルであるフェスティバルに参加したのは今回が初めてだったと思う。言語の壁がなくなるというところで、すばらしいアイディアだと思った。演劇は言葉を超えたコミュニケーションが可能であるということを本当に証明した。

演劇の実践家として、作品についての感想を共有させてほしい。フェスティバル期間中、いくつか子どもたちにはふさわしくないのではないか、という作品があった。しかし、児童青少年演劇というものを考えるとき、このフェスティバルにとっての若い観客とはどれくらいの年齢層を意味するのだろう、という質問を自分に問いかけた。

『ナイトライト』のことを思い出すたびに、いまだに鳥肌が立つ。とにかく素晴らしい作品だった。深く感動し、涙が出た。パフォーマンス全体が本当に素晴らしかった。『ナイトライト』は舞台セットも素晴らしく、美しい物語と効果的なストーリーテリングで、シアターメイカーとして、新鮮で、同時に非常に豊かな体験をさせてくれた。

沖縄の地元の人たちのパフォーマンスを観て、戦争中、そして戦後の話を聞けたのはとてもよかった。日本の観客だけでなく、海外の参加者にとっても、沖縄の歴史を理解できるという点でフェスティバルにとって重要なプログラムとなっていた。また、沖縄の伝統演劇の形式を取り入れていた作品も良かった。物語は新しく感じるようなものではなかったが、パフォーマンスとして楽しめた。ただ、子どもというよりはティーンを対象にして、沖縄の伝統演劇についても知ってもらう、という作品だったのではないかと思う。それでも、これらの2つは目を開かせてくれるという意味で良い作品だった。

各公演の後のポストトークは作品について、作品のインスピレーションやモチベーション、創作プロセスについてより深く知ることのでいる素晴らしい機会だった。キャストやスタッフの方と個人的に交流を持てたことで、それぞれのグループにより親しみがわき、毎回公演が終わるたびに幸せな気分にしてくれた。しかし、もっと子どもたちが参加できるようなものになったら良いと思う。子どもたちも質問したいことがあるかもしれないし、パフォーマンスを観て感じたことなどを共有してくれる機会にもなるだろう。年齢にかかわらず、観客としての意見が大事なものだと感じさせることができる。

最後に、OAOの最初のOは”オリエンテーション”であり、PAGASAのPA=PAnanaw(ヴィジョン)、PAninindigan(立ち位置)、PAnanampalataya(信念)に対応する。このフェスティバルで尊敬するのは、家族を一緒に劇場に連れて来るための努力た。芸術文化により親しんでもらうために、強力なプラットフォームであると感じた。また、これはフェスティバルの作品をきっかけにお互いに質問したり答えたりと、親子の交流も生むことになる。

もうひとつ、今回のイベントで有益だったのが、アジアTYAネットワークプログラムに参加できたことである。参加者と行なった最初のアクティビティは本当にすばらしかった。他の国から集まった参加者と打ち解けることができた。この活動は非常にパーソナルなもので、フェスティバルのスタートにまったくふさわしかった。また、フェスティバルが正式に始まる前に行うことができたということも良かった。お互いによりリラックスした状態で交流でき、残りのフェスティバルを通して関係をより深いものにすることができた。このネットワークを通して、アジア、ヨーロッパの実践家やフェスティバルディレクターと自分たちの経験や意見を共有し合うことができた。この仲間たちとの交流は、自分の文化だけでなく、フィリピンで私たちが直面している社会的な現実についてもより深く考えるきっかけとなった。

たとえばカンボジアでソクニが行なっているさまざまなアビリティを持つ人たちとの活動について話を聞いていた時、彼女が一貫して”障害のある人々”という言い方をしていることに気が付いた。それが耳についたのは、私自身のトレーニングの中で、こういった人たちも多くのことをすることができるから、”さまざまなアビリティを持つ人たち”と呼ぶべきだ、と学んでいたからだ。しかし、なぜそういう呼び方をしなければならないのか、ということを考え始めた。これについて、シンポジウムで発表した日本人のパネリストの方も扱っていた。それぞれの国で行なっている活動の本質を共有することで、それぞれの国における異なるコンテキストを知ることができた。このコンテキストは、じゅうぶんに理解するためには、細かいリサーチと関わりが必要になる。

このネットワークは、私がフィリピンで行なっていることを肯定してくれた。お互いに響き合うものが非常に多く、参加者同士経験を分かち合い、お互いから学び合うことができた。文化従事者、シアターメイカー、フェスティバルディレクターと、良いミックスがあったため、共有をより興味深いものにしてくれた。

このフェスティバルは私にたくさんの洞察と、新鮮な気持ちを与えてくれた。子どもたちのための演劇を作り続けることに対し、私はより情熱を持って取り組むことができている。演劇や芸術、フェスティバルを通して、子どもたちが人生の重要なことを学び、心を育てることの重要さを感じることができた。こういった素晴らしい活動やイベントに子どもたちが参加できることは、彼らだけでなく、私たちの未来にとっても大切なことだ。この子どもたちが芸術や文化を深く楽しむことができれば、その心は次の世代へと受け継がれる。今回さまざまな作品に出会い、新しい仲間と出会えたことに、心から感謝し、幸せに思う。何よりも、このフェスティバルで学んだことを自分のコミュニティーに活かしていくために、今私はエネルギーに満ち溢れている。

Asian TYA Network
Nikki (Ricky) Nelson Cimafranca
フィリピン
YATTA (Youth Advocates Through Theater Arts)

代表