りっかりっか*フェスタ2016レポート

アジアTYAネットワークのようなプログラムは、さまざまな分野のアーティストやアート関係者が交流する土壌を育てる上で重要なものです。
Ness Roque-Lumbres (フィリピン)

内容について

アートの世界に生きることは、恵まれたことです。そして当然、アーティストには、自分の作品になんらかの正当性を見出し、明確にする義務があります。これは重要なことです。アーティストは常に、自らの作品の意味を問い続けなくてはなりません。フィリピンという開発途上国に生きる私は、自分の作品にどのような価値があるのか、日々自分 に問いかけ続けています。

世界は今、不安定な時代を迎えています。21世紀に入って十数年が過ぎ、未来が形作られ始めています。私たちは多くの意味で、 人類が成し遂げたさまざまな達成について、これを誇りに思い喜ぶことができるでしょう。しかし同時に、さまざまなパラダイムシフトに対して、独裁、資本主義、人種差別主義、帝国主義といった権力による抵抗が起きているのも事実です。 既存の抑圧的なシステムによって利益を得ている者たちが、変化に向けた前向きな一歩に強く抵抗しているのです。

好むと好まざるとにかかわらず、これが現代に生きるすべてのアーティストの創作の背景にあるものです。これが、我々が活動する空間であり、時間だからです。それを無視するか否かは、それぞれの意図的な芸術的選択となります。

子供のためのアートや青少年のためのアートといえば、鮮やかな色や陽光、虹などが思い浮かぶ、と言ってしまうのは簡単です。しかし私は今回、現実世界で私たちを取り巻く緊張や不安が、アジアTYAに関する会議だけでなく、フェスティバルのさまざまな公演作品においても前面に見られたことに驚きました。

難しいテーマに真っ向から取り組んだ作品(『ロウ〜小さな魂〜』、『かわいそうな象』、『寿歌』、『ア・マノ』)もあり、それよりは少し軽妙であったり楽しい形をとりつつも決して単なるエンターテイメントには終わらない作品(『黄色いクツ下の夢』、『レオの小さなトランク』、『恋口説』、『わかったさんのクッキー』)もありました。今この時代、このときに、劇場の中(あるいは外)でステージに立つその瞬間が非常に重要であることの理由を理解し、それを無駄にしてはいけないことを理解している作品こそが、私にとって良い作品と呼べるものでした。子供たちがテレビや携帯端末、映画、インターネットなどを通して何百ものゲームや物語を楽しむことができるこの時代にあって、TYAは、生のパフォーマンスが持つ意味を訴えるという、ますます困難さを増す課題に直面しているのです。

しかしそれにもまして印象的だったのは、りっかりっかフェスタと、軍事と政治にまつわる複雑な歴史を持つ沖縄県との関わりでした。りっかりっかフェスタという子供と青少年のための素晴らしいフェスティバルが、この特別な場所と時間に存在するということに、私は涙しました。

アジアTYAネットワーク

交流について

アジアTYAネットワークのようなプログラムは、さまざまな分野のアーティストやアート関係者が交流する土壌を育てる上で重要なものです。私にとってアジアTYAネットワーク、そしてりっかりっかフェスタは、 未来を形作っていく上での劇場関係者としてとしての自分の役割を再確認する場となりました。

アジア地域、とくに東南アジアの他の劇団が、公的資金の欠如や演劇の商業化、西洋文化の影響に対する抵抗など、自分たちと同じような課題に直面していることを知ることは、Sipat Lawin Ensembleのような設立後間もない劇団にとって心強い経験でした。

私はフェスティバル開始当初、自分に本当にTYAに参加する資格があるのかどうか、確信がありませんでした。そして最終日に、多くの参加者が私と同じ気持ちであったことを知りました。それは、心が軽くなるような瞬間でした。他の人たちも、このような「重要な」集まりに参加することに対して不安を覚えていたことがわかったからです。おそらく、 皆いつもさまざまな活動をしていて 、作っている作品も子供と青少年に向けたものだけではないために、自信を持てずにいたのでしょう。

しかし、りっかりっかフェスタのアートディレクターである下山久さんは、「皆ここにいる資格がある」ことを私たち皆に対してはっきりと伝えてくださいました。そして、大人のための作品を作るアーティストが、子供のための作品も作るべきである理由について語ってくださいました。私たちの参加は、大人のための作品を作るアーティストや劇団に対して、TYA作品を作り続けるよう背中を押すための意図的な判断だったのです。

アジアTYAネットワークや、りっかりっかフェスタのような国際的なフェスティバルは、アーティストやアート関係者を育てていく上で必要不可欠なものです。将来的な交流の機会として、トーク(例:ベイビー・ドラマ)や講義、ワークショップ、参加劇団とのトークセッションなどが今以上に開催されることを願っています。このような機会が増えることで、アジアTYAネットワークとりっかりっかフェスタはさらに豊かな場となることでしょう。

子供のためのアートを推進する取り組みは、すべての文化機関にとって優先事項であるべきです。子供たちは間違いなく、社会の重要な構成員であるにもかかわらず、今もさまざまな面で無視され続けています。りっかりっかフェスタとアジアTYAネットワークの関係者や参加者の志、そしてそこで共有されている、子供のためによりよい世界、幸せな世界をつくろうという使命感は、私がこれまでに参加したことのあるどのフェスティバルやネットワークとも異なる、特別なものです。

アジアTYAネットワーク

会議室でスーツを着て、政治や環境問題、産業、市場、戦争などについての重要な決断をする人たちのことを思い浮かべます。そして、小さな部屋で、一人一人がとても4分の制限時間には収まりきらない自分たちのストーリーを語る私たちの小さな集まりのことを考えます。私たちはこうして現場で、自分の仕事に情熱を持ち、まるでそこに命がかかっているかのようにひとつひとつの決断を下します。私たちは自分の仕事に対して真剣であり、自分たちのやっていることに大きな意義があると信じています。そこで行われるさまざまな議論は、世界のVIPたちが集まる巨大な会議室で起こることと同じように重要なのだと、私は信じています。

同じビジョンをもつ者たちが、ひとつの部屋に集まる。時には、それだけで十分なのです。交流が、私たちを強くします。アイディアを交わすのであれ、ストーリーを語り合うのであれ、リソースを交換するのであれ、交わし合うことが私たちに力を与え、そして最後には、希望を与えるのです。

アジアTYAネットワーク

下山様、ACO沖縄、りっかりっかフェスティバル・チーム、アジアTYAネットワーク、参加者の皆様、国際交流基金アジアセンターの皆様に、心よりお礼申し上げます。マラミンマラミンサラマッポ。

写真:Ralph Lumbres

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りっかりっか*フェスタ参加者
Ness Roque-Lumbres
フィリピン
Sipat Lawin Ensemble
パフォーマー、アーティストマネジャー
りっかりっか*フェスタ参加者