りっかりっか*フェスタ2017レポート

グローバルな議論により、植民地からの独立や土着性、文化相対主義といった理想へと私たちは確かに足を進めてきたが、そろそろアジア人としての心により訴えかけるようなTYA作品を創作するための努力を始めるべき時にきているのではないか?
Natalie Alexandra Tse (シンガポール)

りっかりっか*フェスタ アジアTYAネットワークプログラム レポート
Natalie Alexandra Tse

ACO沖縄と国際交流基金アジアセンターによるアジアTYAネットワークプログラムに参加するため、7月21〜31日の1週間を、りっかりっか*フェスタ(国際児童・青少年演劇フェスティバルおきなわ)で過ごした。赤ちゃんから家族まで観れる52のプログラムが行われ、そのうち、幸運にも13の公演を観客として体験することができた。観た作品について私の思ったことをまとめていく。

1) 『パズル』ダンセマダンスシアター/リトアニア(0+)

赤ちゃんのための作品。一貫性のある明るい色使い、赤ちゃんのボディーランゲージを真似するような繊細で優しい動き。繰り返しの、かつテーマが明確な音楽は、乳幼児期における音の研究によってこの作品が作られていることの証拠でもあった。美学的な意図に欠けている(特に『アゲイン』のような作品と比べると)という声や、技術的に優れたダンサーでなくてもできるという声もあったが、私はそうは思わない。この作品の繊細さはまさに的確であり、対象とする観客の年齢に適したものであった。

2) 『フィンランドのベビーサウナ』ロイスクアンサンブル/フィンランド(0-2)

アーティストの生の歌声が素晴らしかった。音楽も作品の意図に合わせてよく選ばれていた(ただ、音響はもう少し調整できたと思う)。公演の中での水や枝、葉っぱなどの自然の素材の使用は新鮮で、作品のコンテクストをうまく表現していた。観客は0-2歳を想定していたが、8ヶ月以上くらいの対象にした方がより作品を楽しめるのではないかと感じた。

3) 『石のうた』シアターo.N./ドイツ(2+)

楽しく、魅力的な作品。石を作品の主な楽器として使用することは、人を自然へと立ち返らせ、人間と芸術、そして自然の関係性について考えさせた。中国の”八音”の哲学にあるように、古代の楽器が自然物で作られていたことと同じく、石を中心とした音楽パフォーマンスは私たちが音楽に親しむのにピアノやバイオリンなど洗練された楽器を必要としないということを再認識させた。

4) 『アナのはじめての冒険』テアトロ・デ・オカシオン/チリ(4+)

個人的に一番好きだった作品。シンプルで、正直で、まっすぐなパフォーマンスの哲学が心に響いた。”遊びとしての想像”、”遊びとしての冒険”、そして日常にあるものを”遊びとしての楽器”として使うアイディアが、作品の上演中ずっと私の心を弾ませた。親しみやすい主役の女優と、コミカルな俳優、そして生の音楽とサウンドエフェクトを担当した3人目の俳優/ミュージシャンという構成も効果的だった。

5) 『Mr. バンクの魔法のガラクタ』バンクパペッツ/オーストラリア(4+)

家の中にあるものを使って、俳優は思いもよらない方法で観客を驚かせる影絵を作り出した。とても楽しく、魅力的な作品であったが、美学的な部分では私の好みではなかった。

6) 『グッバイ、ミスターマフィン』シアター・リフレクション/デンマーク(5+)

もう一つ、個人的に好きだった作品。俳優がストーリーテリングしながらテーブルの下で操作する精巧なパペットのメカニズムは非常に素晴らしかった。死に向かうモルモットの物語は、小さな子どもたちが死というテーマに向き合うのに非常に適したアプローチであると感じた。メインの俳優は穏やかで落ち着いていて、個人的な物語として語りながらも、感情のレベルを巧妙に調節し、観客との関係性を作り上げた。生の音楽かを入れるのは作品の密接感を高めるのに効果的であったが、チェリストがもっと物語の内容に関わっていった方が良かったと思う。

7) 『スリーリトルソング』ACO沖縄/日本(6+)

これは少し混乱させられる作品だった。『赤ずきん』『シンデレラ』『美女と野獣』という3つのおとぎ話の再構築というのがこの作品の出発点であった。おとぎ話を現代の社会により近い内容に作り変えるというアプローチは読み取れたが、もともとの物語との関係が見えなかった。作品の中で生のバイオリンを使うのも理解できなかった。サウンドデザインも、委託作品のプロフェッショナリズムを反映するにはあまりにも二流だった。

8) 『炎の鐘』ACO沖縄/日本(9+)

日本の伝統的な演劇を観た経験はほとんどない。この作品は、物語や生の音楽といった要素は残しながら、日本の伝統的な演劇形式を現代化する試みであるということは理解できた。物語はアジアのおとぎ話によくある内容で、伝統的な形式をなぞりながらも表現は日本の伝統的な演劇に顕著な繊細さに欠けるものだった。

9) 『アイオンザスカイ』ダイナモシアター/カナダ(9+)

ドラマ、音楽、ダンス、アクロバットを混合させたダイナミックな作品。内容は難民について考えさせるもので、難民が直面するさまざまな感情を表現していたが、『サウンドオブミュージック』の美意識のコピーであるように感じた。ストーリーラインはお決まりのパターンで、衣装やセット、小道具もありふれたものだった(とても西洋的で、ロシアやナチスを思わせるもの)。西洋的な視点での美術ではなく、より国際的なものを意識していたら、難民というテーマをより引き立たせることができたかもしれない。

10) 『海のこどもたち』ACO沖縄/日本(9+)

力強い俳優たち、児童演劇には興味深いテーマ。シンプルかつ効果的な衣装、セット、小道具の使用は楽しかったが、同時に取り扱うテーマの重さも反映したものだった。しかし、長すぎた。必要ない繰り返しが多く、キャストのパワーと作品のテーマでもっと引き込まれるはずだったのに、心が離れてしまった。

11) 『レ・ミゼラブル』ACO沖縄/日本(9+)

興味深い、ミニマリスティックな作品であったが、作品紹介にあった”オブジェクトシアター”というのは正しくない。なぜ『レ・ミゼラブル』の物語を選んだのか、国際フェスティバルであるにもかかわらず、なぜあえて日本語に縛った作品となったのか知りたい。作品の美学は楽しめたが、長すぎて落ち着かなかった。対象年齢についても、この設定で合っているのか疑問だった。

12) 『KUUKI』児演協/日本・ポーランド(0-18ヶ月)

赤ちゃんのための心地よく親密な作品。作品のコンセプトは非常に魅力的であった。ただ、パフォーマーの表現力が作品のムーブメントによる言語を伝えるには弱かった。それに対してアコーディオン奏者は非常にプロフェッショナルで、作品と自分をつなぎ続けてくれた。

13) 『アゲイン』オーベンダンス/デンマーク(6ヶ月〜4歳)

美意識という点において、一番のお気に入りの作品。乳幼児のための作品が、ここまで美学的な質を保てるのかと驚かされた。空間の雰囲気は照明によって大きく変えられ、セットデザインは感覚的な情報を最大限に伝えるものであった。ダンサーのスキルも高く、観客とのつながりを保ちながら、素晴らしいパフォーマンスを見せた。

自分が見たすべての作品を反映するいくつかの論点を見つけた。まず、サウンドを主な手段とするアーティストとして、TYAにおけるサウンドや音楽の役割は何なのか?ということである。作品の中で使われるサウンドや音楽は、パフォーマンス自体で合ったり、楽器の録音であったり、MIDIで作成した音楽であったり、生の音楽家の出演、いくつかの楽器を同時に演奏できるミュージシャンなど多岐に渡り、自分にとってはその手段によって引き込まれる度合いが変わってくる。サウンド・音楽の実践家として、どうやってTYA作品を創作できるのか、ということを考えた。次に、植民地主義、西洋化、グローバル化はすでに歴史の1ページとなっているということである。グローバルな議論により、植民地からの独立や土着性、文化相対主義といった理想へと私たちは確かに足を進めてきたが、そろそろアジア人としての心により訴えかけるようなTYA作品を創作するための努力を始めるべき時にきているのではないか?3つめは、総体的に芸術を捉える子どもたちを前に、私たちはヴィジュアルアート、音楽、ダンス、演劇など芸術形式について議論をすることにまだ意味はあるのか、ということである。

作品の鑑賞、アジアTYAネットワークのグループとのディスカッション、鑑賞した作品の反芻の他に、一番自分にとって価値があったのは、東南アジアの近い国々のプロデューサー、アーティスト、創作者たちと出会えたことである。それぞれの国における芸術活動について、課題について、そしてネットワークについて理解できたことは貴重な機会だった。その国における芸術(特にTYA)への距離は非常にさまざまである。それぞれの国におけるTYAの経験の強さや弱さを共有できたと感じているので、今後の課題はこういった国々の間でより深い理解を育て、それぞれの地域だけでなく東南アジア全体でTYAを高めていくためにお互いに助け合うことだと思う。ただ、経済的なことがどうしても課題になる。そのため、これからの現実的なやり方としては、このアジアTYAネットワークプログラムのなかで培った個人的な関係をより深いものにし、私たち自身がお互いにつながりを保つために努力をし、参加できるものなども含めてお互いの活動について情報共有をし続けるということだろう。

最後に、りっかりっか*フェスタのアジアTYAネットワークに参加させてもらったことに心から感謝したい。多くのことを学び、アーティストとして自分の活動についてより深く考えさせられ、この、もしくは他のTYAフェスティバルで上演できるようなTYA作品を創作するという目標を与えてくれた。

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Natalie Alexandra Tse
シンガポール
音楽家・音楽教育者・研究家
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りっかりっか*フェスタ参加者