りっかりっか*フェスタ2016レポート

フォーラムの間に、集いの場がフェスティバル見本市だけの場所からより協働的な形式へと有意義な形で移行していたことが確認されました。
Melissa Tan (シンガポール)

背景

 ナショナル・アーツカウンシル シンガポール (NAC) は、沖縄に本拠地を置く児童青少年演劇祭のりっかりっか*フェスタよりアジア児童・青少年演劇ネットワーク (アジアTYAネットワーク) 1回フォーラムに出席するよう招待を受けました。アジアTYAネットワークの目的は、児童青少年演劇 (TYA) を東アジア・東南アジア地域でより認識してもらえるように推進すること、また、参加者の間でベストプラクティスを紹介しあい、リソースを共有することです。りっかりっか*フェスタでは、1週間の間にTYA32作品が上演され、上演作品はベルギー、スェーデン、日本、韓国やスペインから来ていました。作品のほとんどは上演時間が60分より短く、言葉を用いないノンバーバル作品で、0才から8才までの子どもが対象でした。

目的

2. 沖縄への本出張は、NACTYAをシンガポールの文脈に当てはめるために行っている取組みの一部で、また、国際的・地域的にTYA界で最近どのような発展があったかをNACが学ぶためでもあります。

出張者

3. 芸術・青少年部副部長Melissa TanNACを代表しました。

主要な学び

(A) アジアTYAネットワーク参加者がネットワークを活用する機会

4. 現在、世界にはいくつものTYA団体・ネットワークが存在しますが、こうした団体・ネットワークの目的、規模、活動レベルは異なっています。

りっかりっか*フェスタは、アジアTYAネットワークの創設に先立って、アジア児童・青少年演劇フェスティバルネットワーク (Asian Alliance of Theatre Festivals for Young Audiences) を結成しました。フォーラムの間に、集いの場がフェスティバル見本市だけの場所からより協働的な形式へと有意義な形で移行していたことが確認されました。東南アジアからの参加者が、自国で最近起こっているTYAの発展動向について共有し、相互に支援する機会に関して議論することが奨励されたのです。

5. アジアTYAネットワークフォーラムには、ASEAN諸国のほとんど全てから18人が参加しました。良い反応があったことが確認されましたし、多くの参加者が地域内の資源や機会をどう活かせるかに関して、情報をより多く共有することを歓迎していました。興味深い発見の1つは、国際交流基金が日本からの作品だけでなく、インドネシアとの共同制作も上演できるように第1回バンコク国際児童演劇祭 (BICT) を支援したことでした。これは地域内協力の輝かしい事例で、国際交流基金を称えたく存じます。

6. ヨーロッパ側には、アシテジ・インターナショナルの傘下にいくつかのサブグループがあります。最近結成されたグループの1つが「スモール・サイズ (Small Size)」で、このグループは幼児期早期の子供たち向けの演劇に注力しています。アジアTYAネットワークのイベントには、クリエイティブ・スコットランドやイマジネイトフェスティバルといった組織を代表してヨーロッパからの参加者が出席していましたが、彼らはアジアTYAメンバーと協力して、児童青少年向けの作品を共同制作したり、共同上演したりすることに興味を示していました。また、2カ国が11で取り組むのではなくアジアTYAネットワークを活用することの利点についても触れていました。

(B) シンガポールでTYA発展を育むために必要なアプローチは異なっている

7. 観客の開拓がTYAへの投資を行う上で主要な牽引力となると語っていた人がいた一方で、将来の潜在的な芸術消費者として子ども達を扱うのではなく、今の時点でも意味ある形で関わることができ、芸術を愛好する個人として尊重する必要性を強調する人もいました。

8. 議論の中で流れていたもう1つのテーマは、TYAや「ベイビードラマ」の哲学や美学を踏まえると、こうした作品は小規模で温もりのある空間を必要とし、レパートリー形式で上演される必要があるという点です。これがなぜかと言うと、上演者たちが対象となる子供たちとアイコンタクトを行い、子どもたちを作品の共同制作者としてみなす必要があるからです。物理的な環境は安全で、子ども達が安心できる場所でないといけません。また、上演後は親子でその場に残れるような遊び場として機能しないといけません。りっかりっか*フェスタにおいては、上演された作品のほとんどについて、会場席数が20から100弱までで、この点が当てはまっていたように見受けられました。もう1つ確認できた点は、こうした作品の上演期間を長くする必要があるということでした。これは、アーティストが互いの作品を鑑賞しあえるようにして学習を促進するためでもあり、潜在的な観衆に新たに口コミで宣伝が届くようにするためでもあります。プロデューサーの所見によると、実験的な非言語作品は商業的にマーケティングすることが難しいので、TYAでは口コミが重要です。

9. シンポジウム「世界のベイビードラマを学ぶ」を共同で行ったアシテジ・セルビア会長のディアナ・テバヴァック氏は、TYAのコスト集中的で非営利的な性質を認識しており、実践している人々にTYAプロジェクトに資金を集める上で、創意工夫を行うように呼びかけていました。芸術助成団体の他にも、社会への包摂や教育といったさらに広い社会課題を取り扱う団体を考慮するように仰っていました。

10. 上記のアプローチ2つが持つ意味合いの1つは、TYAプロジェクトやプログラムの評価です。子どもの芸術体験をどのようにしたら一番良い形で突き止められるのかについては、フォーラムでは結論がありませんでした。また、TYAが子どもの発達など隣接分野にもたらす影響をどう測定するかに関しても、議論は限定的でした。この点は、アジアでTYAをさらに発展させていく上で一層の検討をしていくことが大切な分野でしょう。

次のステップ

11. アジアTYAネットワークの主催者は2017年に次の段階へと進みたいと考えています。計画では、東南アジアのTYAの状況をより深く理解することを目的に、東南アジアから選んだ国々に参加者が調査訪問できるように準備する予定です。シンガポールの演劇関係者が外部から訪問を受け入れる場合には、地元の演劇関係者が共同制作する機会を設けることを目的として、NACはその受け入れ支援を考えたいと思っています。

りっかりっか*フェスタ参加者
Melissa Tan
シンガポール
National Arts Council, Singapore
アーツ&ユースデピュティマネジャー
りっかりっか*フェスタ参加者