アジアTYAネットワークプログラム2017レポート
Liew Kung Yu / リトルドアフェスティバル芸術監督(マレーシア)
まず、よく知らない方のために説明すると、このプログラムは2016年にりっかりっか*フェスタによって、東南アジアのTYA(Theatre for Young Audiences=児童青少年演劇)の実践家をつなぐために始まった。
マレーシアのリトルドアフェスティバルの芸術監督の視点から、このアジアTYAネットワークに参加できたことにとても感謝している。この地域のTYAの状況をより良く知ることができた価値のある経験であるとともに、自分の国においてTYAをさらに発展させてくための可能性を大きく広げてくれた。
さまざまなアイディアやテクニックの学びと交流の場所である以上に、アジアTYAネットワークは私にとって世界各地のTYAのオーガナイザーや研究者、実践家と出会い、長期的な関係を築き、国を超えて協力できる素晴らしい機会だった。
2016年の最初のアジアTYAネットワークでの出会いを経て、東南アジアの状況についてより深く理解するために、2016年、2017年にシンガポール、マレーシア、カンボジアへの調査訪問を行った。プログラムを代表して、経験のあるファシリテーター、ディレクターであるCaleb Lee(シンガポール)、Adjjima Na Paralung(タイ)、Liew Kung Yu(マレーシア)、Dara Huot(カンボジア)がこの調査訪問に参加した。
この調査訪問は、それぞれの国のいくつかの団体やパフォーマー、実践家に出会い、それぞれの活動やTYAの状況、必要なサポートについて話を聞ける実り多いものとなった。特に以下のような点が、ポイントとしてわかってきた。
こういった発見から、東南アジアのTYAをより高めていくために私たちができることは、実践家に新しいアイディアやテクニックに触れる機会を提供し、演劇が児童青少年の心の発達にいかに貢献できるかを知ってもらうことだと感じるようになった。また、りっかりっか*フェスタという場所を、アジアの実践家や関係者が世界のTYAの質を体験できる場として活用し続けることもまた必要であると強く感じた。
アジアTYAネットワークプログラム2017
2017年のプログラムには、東南アジア7カ国から10名が参加した。昨年と同じく、参加者は自分たちの活動についてメンバーや一般に向けて紹介する機会があった。そしてりっかりっか*フェスタ(沖縄県那覇市)の作品を観ることができた。
今年の参加者は:Sreyleab Nov (カンボジア)、 Ariyo Zidin (インドネシア)、 Khamhou Phanludeth (ラオス)、 Lattanakone Insisiengmay (ラオス)、 Ho Shih Phin (マレーシア)、 Linda Ang (マレーシア)、 Roger Sangao-wa Federico (フィリピン)、 Natalie Alexandra Tse (シンガポール)、 Pinya Chookamsri (タイ)、 Suchawadee Phetpanomporn (タイ)で、Caleb Lee(シンガポール)、 Adjjima Na Patalung(タイ)、 Liew Kung Yu(マレーシア)、Dara Huot(カンボジア)がファシリテーターとして参加した。
先の調査訪問を受けて、今年のプログラムはかなり内容を変え、より実践家にTYAの可能性について気づかせることにフォーカスしたものとなった。それを可能とするために、プログラムに以下のような変更を加えた。これらの変更は、まだ経験の浅いTYA関係者に、作品の背景やパフォーマーの意図など、作品を創作する際のクリエイティブな思考プロセスを理解してもらうことを目的としていた。
今年のプログラムで私たちが得たものの中でも、このグループ内でのディスカッションでの交流がもっとも価値のあるプロセスであったと感じる。こういった方法で視点や意見を共有することで、作品についてさまざまな角度から考えることができただけでなく、参加者それぞれの文化や価値観についてより深くクリアに理解することができるようになった。
それを証明するために、私たちが観た3つの作品を例に、私たちが話し合ったことを紹介したい。
『パズル』
ダンス作品の一つであるこの作品は、人によって意見がとても分かれた。対象年齢が0-3ではなく0-5に拡大されるべきであると言った人もいた。しかし、ストーリーテラーのAriyoによると、5歳の子どもたちは既に物語を理解できる年齢であり、明確なストーリーのないこの作品にはあまり関心を持たないのではないか、とのことだった。もっと感情表現を豊かにすべきではないか、という意見もあったが、LindaとAriyoは、パフォーマーの表現は赤ちゃんにちょうど良いものであり、これ以上表現を強くすると怖がらせてしまうと感じていた。
『アイオンザスカイ』
この作品は亡命者や難民をテーマにした作品で、私たちは難民という若い観客にとって馴染みの薄いテーマを観客が理解できるのかということについて話し合った。Natalieによると、この作品が創作されたカナダでは多くの難民を受け入れており、学校でも難民について話をするため、カナダの若い観客たちは物語を理解し、作品のメッセージも感じることができるのだろうということだった。
『スリーリトルソング』
この作品は、文化的な概念や知識の全世界性についての仮定という大きな問題をもたらした。『スリーリトルソング』は、3つの西洋のおとぎ話を、現代のコンテキストに置き換えるというものだった。パフォーマーたちは、この作品で扱われる『赤ずきんちゃん』『白雪姫』『美女と野獣』という物語は全世界的に知られていて、説明する必要はないと思っていた。しかし、カンボジアからの参加者によると、これらの物語は彼らの国では全く知られていないため、彼らには物語の知識もなく、とても変だったとのことだった。
グループの中には、俳優や演出家、ミュージシャン、デザイナー、プロデューサー、マネジャーなどさまざまな背景の参加者が集まっていた。異なる文化的背景と異なるトレーニングを持っているため、それぞれがそれぞれの経験をもとに作品を受け止めるため、作品の見方というものも本当にさまざまであるということがわかった。
こういったディスカッションは、作品を異なる視点で見つめ、自分では気づかないところに気づかせてくれた。それだけでなく、意見や経験を共有し合うことは、物事をより深く理解できる手助けとなった。私たちのような多様性豊かなグループにとって、このクリティカルシンキングのエクササイズは非常に価値のある学びであり、私たちの思考と私たちが作る作品のクオリティを高めてくれることとなった。
私のレポートのまとめとして、主催者のACO沖縄と、このプログラムのスポンさーであり共催者の国際交流基金アジアセンターに感謝を伝えたい。特に、下山久さん、宮内奈緒さん、酒井祐美さん、そしてこのプログラムを企画し、私を参加させてくれた皆さんに感謝したい。アジアTYAネットワークから本当にたくさんのことを学び、これから私に寄せられた期待に応えていきたい。