りっかりっか*フェスタ2017レポート

東南アジアとその他の地域におけるTYAについての対話を継続し、TYAの地域における、また社会政治的にユニークなポジションを育てていくことを提案したい。
Caleb Lee (シンガポール)

アジアTYAネットワークプログラム [りっかりっか*フェスタ 2017年7月23~30日]

ACO沖縄主催、国際交流基金アジアセンター共催により行われた今年のアジアTYAネットワークプログラムは、東南アジア地域から9名の参加者と4名のファシリテーターを招き、1週間をかけて文化交流やアーティストとのディスカッション、作品観劇などを行なった。東南アジアの実践家やプロデューサーをつなげ、コネクションや相乗効果を見いだすことを目的に、参加者はオープンな心と学びへの意欲を持ってフェスティバルに集まった。それぞれの国は地理的に見ればかなり近い位置にあるにも関わらず、各参加者の言語や伝統、考え方などの多様性を感じられたのには元気づけられた。この文化的に色鮮やかな背景が、洞察力のある視点を持ったディスカッションや分析、物語の脈動により、期間中の対話を意義深く、また刺激的なものにしてくれた、ということを強調したい。

流動的でインフォーマルな交流に重きを置いた昨年のプログラムと異なり、今年のプログラムは参加者を2つのグループに分け、グループごとに作品を観劇し、アーティストと話をし、またさまざまなシンポジウムやテーブルディスカッションに参加するという構造立てられたものになった。私はファシリテーターの1人として、いくつかのディスカッションをリードさせていただいた。対話の深さと質を感じられたのはとりわけ印象的だった。参加者が自由に意見や見方を共有できる安全なスペースを作り出すために、批判ではなく批評的な観点を保つということを常に注意して進めていった。参加者は作品から学ぶだけでなく、他の参加者の味方やアイディアからも学んでいった。異なる背景を持つ参加者が集まる利点の一つは、新しい考え方を提案し、ディスカッションを豊かなものにするためのさまざまなボキャブラリーを発見することができるということにある。また、すべての参加者がTYAの分野から来ているわけではないことで、ディスカッションはより活発で多角的なものになったのは新鮮な変化だった。特に『グッバイ、ミスターマフィン』を巡るディスカッションは、TYAのための重要なテーマをどのように扱うか、ということを明らかにしていった点で非常に興味深いものだった。参加者の感情的なレスポンスを喚び起こしたこのビタースイートな作品は、参加者自身の芸術的な知識や経験に迫り、ストーリーテリングやセットデザイン、音楽が観客とさまざまなレベルでつながっていくために効果的に使用されるか、という活発なディベートを生み出した。こういった交流の場が、参加者がそれぞれの文化的背景や個人的な体験に立ち返るために有益なプラットフォームとなった。インフォーマルかつ冗談半分で”フェスティバルベスト”作品をノミネートしたとき、その会話はTYAの持つ芸術分野を超えた本質と、適切な方法で届けられた場合あらゆる年齢層に訴えかけることのできるTYAの可能性について触れるものとなった。

こういった交流の場はまた、参加者の文化的なコンテクストを考えさせた。ファシリテーターの1人であるクンユさんが言っていたとおり、参加者が公演から公演へ慌ただしく動き回るのではなく、作品を反芻し、その作品について話をする機会を与えられたことは非常に重要なことだった。参加者自身の文化的な意識を元に作品を分析することで、作品の美学や倫理感、有効性についてさらに踏み込んだ質問を生み出した。終演後のアーティストとのディスカッションも、作品創作のスターティングポイントや世界的な児童青少年のための挑戦や創造的な衝動、世界の児童青少年にとっての問題や考えるべきテーマについて参加者により深く考えさせる別の側面を提供した。

プログラム参加者は、アジアTYAミーティングにも参加することができた。ここでは、TYAの知識や理解をより大きく多角的なスケールで深めることができた。テーブルディスカッションやシェアリングなどを通して様々な情報を得ることができ、また東南アジア地域にとって非常に関連が強く、また緊急の課題について話をすることができた。”TYAと教育”、”共同制作”、”フェスティバル”、”助成金”など指定されるトピックにより刺激的なディスカッションが生まれ、そのあとに続く対話への重要な思考とつながりを提供した。こういったディスカッションが、セッション終了後に国や文化を超えた可能性やパートナーシップへと変わっていくのを目の当たりにすることができたのはとても嬉しかった。特に”TYAと社会との関わり”というテーマは、参加者に世界的、地域的両方のレベルでTYAについて考察する機会を与えたため非常に興味深いものとなった。公演の鑑賞と同時進行でこういった対話の機会があったことで、プログラム参加者はTYAに関わる複雑な問題により効果的に向き合うことができた。さらに、参加者が抱える問題や懸念を明確にし、彼ら自身の社会政治的環境に対するフラストレーションについて共有することも可能にした。こういった共有体験により、TYAコミュニティの中でより強い結束と仲間意識が生まれていった。

この約1週間のディスカッションとシェアリングの中からファシリテーターが特に重要であると感じたトピックについて、プログラム参加者と再度意見を交わすこのプログラムのまとめは適切なものだった。クリエイティブな"フィッシュボウル"スタイルのシェアリングを通して、参加者は4つのトピック-創作性と内容、創作性とマネジメント、創作の実践、創作の反映-について考えやアイディアを共有した。このエモーショナルで濃厚なセッションでは、ポテンシャルの高いアイディアが多く生まれ、交わされた。TYAは常に創造性の広がりと共にあるものであり、参加者がこのフェスティバルを、自分自身の視点や創作体験とこの創造性の広がりの関係性について考えることで締めくくることができたのは非常に象徴的だった。

カンボジアでの調査訪問についてのレポートの中で、TYAはシンガポール、マレーシア、タイ、フィリピンなどを除く東南アジア地域ではまだ新しい分野であり、圧倒的に"西洋的な"概念であると書いた。この分野における実践や理解はまだ限られており、その分探求の可能性は広い。フェスティバル期間中のディスカッションから、TYAは、それぞれの地域で固定的に定義されるものではなく、時間や場所を超えた文化やテーマに呼応する流動的な実践であるべきだと提案したい。児童青少年との・による・のための作品は、特定のコミュニティや実践の中に根付くものであるが、それが常にその地域に関連づけられるものであるとは限らない。そのため、実践家は常に自分自身に挑戦し、助成金や教育の方針、社会政治的な要因を認識しながら自身の実践に反映し続けなければならない。TYAの哲学や理想を掲げる前に、まず自身に与えられた状況の中で自分たちの観客について理解することが重要である。

最終日に繰り返された共通の質問は、”この次に何をするか?”ということだった。アジアTYAネットワークが一つのプラットフォームとして希望と可能性のネットワークになっていく可能性を強く信じている。今回この国際的な場所にさまざまな背景や分野から私たちが集う機会を与えてくれたACO沖縄と国際交流基金アジアセンターの尽力には心から感謝をしている一方で、これから同じ志を持つ仲間たちによるこのパートナーシップを進めていくには、国や団体ではなくそれぞれの個人が担う力が求められる。ほとんどの国で子供たちを取り巻く文化環境が大きく変わっている中で、東南アジアのTYA実践家たちが、コミュニティや劇場、伝統、芸術実践、教育、そして児童青少年といった複雑な状況、そして”ぐちゃぐちゃの現実"と向き合い関わり続けていくことが強く求められている。社会の変化、経済の再築、政治的改革は、多くの声や流れ、理解のネットワークによってのみなし遂げられる。グローバル化がさらに進むこの21世紀の2回目の10年間において、文化や国を超えた交流はすでに私たちの日常生活に組み込まれている。東南アジアとその他の地域におけるTYAについての対話を継続し、TYAの地域における、また社会政治的にユニークなポジションを育てていくことを提案したい。児童青少年の観客について、社会について、芸術についてより深く理解し、私たちがTYAと呼ぶものの境界線を広げていくためには、対話を続けていくことが何よりも重要である。

ケレブ・リー(シンガポール)
インディペンデントプロデューサー/リサーチャー

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Caleb Lee
シンガポール
プロデューサー・研究者
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りっかりっか*フェスタ参加者