アジアTYAネットワークプログラムレポート

今年のりっかりっか*フェスタでのアジアTYAネットワークプログラムが、”社会変革のための演劇”をテーマとしたことは重要なことだった。
Adjjima Na Patalung (タイ)

今年も3度目のアジアTYAネットワークプログラムにご招待いただいたことを嬉しく思う。2016年からりっかりっか*フェスタが行なっているこのプログラムから派生したという形で2018年5月17~27日にかけて行われたBICT Festの中で東南アジアTYAミーティングを行なった直後ということもあり特別な思いがあった。

このプログラムの目的が東南アジアにおける児童青少年演劇の状況を理解することだとしたら、今年のプログラムは、個人的に、児童青少年演劇が現在存在していることの議論の核心まで到達することができたと感じている。アジアTYAネットワークプログラムは、2016年から、毎年りっかりっか*フェスタで行われるプログラムと、シンガポール/マレーシア、カンボジア、ミャンマー、そしてタイという4つの調査訪問によって積み重ねられてきた。ミャンマーでの調査訪問の後、議論は東南アジアの多くの国におけるTYA活動の本質を探るものへと発展していった。

東南アジアは、文化的にも、歴史的にも、さまざまな面で多様性に満ちている。そして世界経済の枠組みの中で急速に存在感を増している地域でもある。にも関わらず、多くの国はいまだに政治的な不安定さや公的教育や人権の問題、大きな貧富の差に苦しんでいる。私たちは、演劇は芸術表現であると同時に、単なる癒しではなく、社会が変化するための手助けとなりうる芸術形態であるということを見出した。しかし、これまでアジアTYAネットワークプログラムに参加した多くのメンバーは応用演劇や社会変革の分野で活動しており、児童青少年のための演劇を芸術表現に特化して創作しているメンバーの多くは、普段は大人向けの演劇活動をおこなっているという状況がわかってきた。児童青少年のための演劇創作だけに取り組んでいるシアターメイカーは、東南アジアにおいてはほぼ存在しないのだ。これが問題であるというのではなく、この地域におけるTYA活動の優先順位を示す事実として書いている。しかし、コミュニティのための活動がしばしば演劇のプロセスやメソッドを通して若い人々に力を与えたり教育したりすることにフォーカスし、彼らと、もしくは彼らのために質の高い芸術作品を創作するということに重きをおいていないという状況の中で、芸術水準の向上が同時に進んでいくことは可能なのか、という質問も出てきた。

そのため、今年のりっかりっか*フェスタでのアジアTYAネットワークプログラムが、”社会変革のための演劇”をテーマとしたことは重要なことだった。今年東南アジアから参加したメンバーの選定は、TYAや応用演劇の分野でこのテーマに強いフォーカスをもって活動していることをベースに進められ、彼らは自身の活動について話し、特にこの分野で長年活動しているシアターメイカーであり教育者であるRuth Pongstaphoneによるワークショップで実践的に共有し、最後にはプログラム参加者以外の関心がある人たちを含めて、TYAの未来についての議論と交流を行なった。

この10日間のプログラムは非常に充実したもので、参加者同士の強いつながりを生んだ。今年のプログラムにはカンボジア、インドネシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムから新しいメンバーが参加した。加えて、日本、中国、イギリスからもTYA実践家が参加したことはとても効果的だったと感じる。他の地域の実践家が参加することで、議論に別の視点を加えることができた。東アジア、ヨーロッパのTYAは芸術性、そして商業性の部分で発展している。しかし、同時にTYAの活動は、地域に関わらず、社会へのポジティブな変化をもらたすことを根底にしており、単なる芸術創作以上のものであり、子どもたちが関わることでより繊細な気配りが必要であるということは共通している。

しかし、プログラムが毎年発展していく中で、ディスカッションもより特定のテーマに特化し、また密度の濃いものになってきており、今後のプログラムを準備する際にはその内容と構造を準備するのにもう少し時間をかけ、さらにそれぞれのセッションをより長いものにするべきだと感じる。また、人類学や心理学など、他の分野の専門家や研究者に入ってもらい、個人的な経験や視点を共有する以上のディスカッションに発展させるべきだとも考えているそれにより、内容的にもより力強い、バランスの良い素材を集めることができるだろう。これからりっかりっか*フェスタでのアジアTYAネットワークプログラムへの助成金が確定されていないという状況もあり、私たちはこのプログラムが継続し、発展していくために何ができるか、そしてこのプログラムを東南アジアの他の国々で行うことができないか、ということを話し合った。これについてはまだ継続中である。

最後に、これまでこのすばらしいプログラムをリードしてきたりっかりっか*フェスタに感謝の気持ちを示したい。また、今年も大成功であったフェスティバルプログラムにおめでとうと言いたい。そして、国際交流基金アジアセンターとACO沖縄に、アジアTYAネットワークを通して東南アジアにおけるTYAの発展をサポートしてくれていることに心から感謝する。

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Adjjima Na Patalung
タイ
BICT Fest
フェスティバルディレクター