アジアTYAネットワーク調査訪問 フェーズ3 - カンボジア [2017年2月6日-11日]
カンボジア
Caleb Lee07/03/17

背景

 今回のカンボジア訪問は、東南アジア諸国での創作・文化活動を取り巻く環境を理解するためにアジアTYAネットワークが実施した調査訪問の3番目のステップです。アジアTYAネットワークは、今後のパートナーシップと将来の活動を推進することを目的に、この取組みを行なっています。国際交流基金アジアセンターの支援を受けたこの調査訪問では、訪問団はシンガポールとマレーシアのクアラルンプールを訪れた後に、5日間の日程でカンボジアを訪問しました。焦点をあてたのは、シェムリアップ、バッタンバン、プノンペンの3都市です。カンボジアの文化的背景、政府による介入、芸術作品の制作と受容の状況を理解するためには、この国の複雑で豊かな歴史を認識する必要があります。カンボジアの歴史は、何世代もの人々が経験してきた不安定な政治、経済の復活、社会的な葛藤が折り重なっています。歴史上で重要な局面としては、フランスによる植民地支配を受けた1800年代、クメール・ルージュの1970年代、そしてヴェトナム支配後の時期が挙げられます。クメール・ルージュ時代の政情不安と政治紛争が理由で、芸術や文化は衰退しました。最近になってようやく、非政府組織 (NGO) や民間の資金提供者、外国人観光客からの支援を得て、芸術が復興してきています。

 シェムリアップやプノンペンといった主要都市で余暇活動や娯楽を牽引しているのは主に盛んな観光産業であり、この点をはっきりさせておくことは重要です。カンボジアで最初に訪問した2都市 (シェムリアップとバッタンバン) ではPhare Cambodian Circusの作品に焦点を当てましたが、営利企業であるこの団体が成功していることで、多くの小さな舞台芸術団体が刺激を受け、Phare Cambodian Circusの持続性を担保している戦略的な事業構造に倣い、その後に続く下地ができていたことは明らかでした。Phare Cambodian Circusの最高責任者であるDara氏によると、会社の主目的は収益を上げることですが、二次的にはPhare Cambodian Circusの教育プラットフォームを支援することも目的としており、Phare Ponleo Selpak (舞台芸術学校) を社会企業活動によって支援していると私たちに話してくれました。カンボジアの社会政治的環境と照らして、Phareの事業構造と活動、そして理念を理解することで、様々なカンパニーの主要な活動、理念、課題が浮かび上がるでしょう。また、そうすることで、カンボジア文化・社会の構造にも光が照らされるはずです。

教育とトレーニング

 芸術を再生させる試みの一部として、次世代の教育と創造性の涵養にはっきりと力点が置かれていることは一目瞭然です。訪問先の団体の多くが若者と一緒に、芸術をエンパワーメントと啓発の手段として用いることの重要性を強調していました。New Cambodian Artists (NCA) の芸術監督を務めるBob Ruijzendral氏は、こうした躍動感を共有してくれ、彼のプログラムの目的が、若いダンサーのために伝統的舞踊とコンテンポラリー・ダンスを結びつけることだと述べました。Ruijzendral氏のプログラムは教育省の認証を得ていますが、伝統的なアプサラダンスにコンテンポラリー・ダンスの感性を組み合わせたダンスを制作しています。カンパニーは女性のみで、彼女たちも力づけられ、社会的な境界線を押し広げています。同様に、Bambu Stageの芸術監督であるNick Coffill氏もまた、実験的な人形劇やマルチメディアを駆使したパフォーマンスを行うプラットフォームをカンパニーがどのように提供しているかを説明してくれました。Bambu Stageの人形劇の中心となっているのは主任人形師のSoran氏です。Bambu Stageもまた営利企業ではありますが、創造活動の多様性の大切さ、また、伝統的な逸話を現代の観客に対して理解しやすい形で伝えることの重要性を強調していました。Soran氏は現在、人形師のグループと一緒に毎週の公開パフォーマンスを行なっています。

 学生たちが公演への参加機会を与えられている一方で、一番の力点は学生の全人的な教育に置かれています。Phare Ponleo Selpakのエグゼクティブ・ディレクターであるErik Regnault氏は、学生たちが授業に継続的に出席していないとパフォーマンスに参加させていないと語りました。これは学生たちがパフォーマンスだけに注力して、授業カリキュラムから学ばなくならないようにするためです。バッタンバンにあるPhare Ponleo Selpakでは、周辺約10kmの範囲に住む地元学生1,200人が学んでいます。学生たちは公立学校 (小学校・中学校) を卒業してからPhareの専門プログラムに進学することができます。これらのプログラムには、伝統舞踊、音楽、演劇、サーカスのトレーニングが含まれます。また、履修期間は4年から6年で、14-15歳の学生を対象としており、プログラムは全日制です。

 加えて、こうしたプログラムは課外活動として、まだ公立学校に通っている生徒たちにも提供されています。生徒たちは、視覚芸術、グラフィックデザイン、アニメーションのプログラムから選ぶことができます。夕方には、学生が観光客に向けて公演を行なっています。チケットや関連商品による収益や、ファンドレイジングで得たお金はパフォーマーに支払われ、また、学校の資金としても使用されます。ひょっとすると、カンボジアでの (芸術) 教育の独自性は、無償で学生に提供されているだけでなく、学生パフォーマーたちがお金を受け取りながら学べることかもしれません。つまり、学生パフォーマーたちはプロとして扱われ、職人技を磨き、技能を高める動機付けとして、パフォーマンスの度に報酬を受け取っているのです。

 プノンペンでは、Meta Houseのディレクターを務めるNico Mesterharm氏が2015年に「学校演劇」を試行的に実践する取組みを行いましたが、これには元気づけられる思いがします。この教育の場での演劇モデルは、地元コミュニティに教育的な演劇パフォーマンスを取り入れる試みです。Mesterharm氏によると、ファシリテーターや役者、脚本家は全員カンボジア人で、未成年による飲酒や飲酒運転の危険性について社会的なメッセージを発するパフォーマンスを行なっているそうです。教科書中心で柔軟性に欠けるカンボジアの教育システムの文脈の中で、こうした演劇は表現と学習の代替的な形態として人気を集めました。こうしたプロジェクトを継続的に行えるようにするために、Meta House寄付者や若者向けの活動を行うNGO、教育省と非常に緊密に仕事を行なっています。プロジェクトの対象となった農村地帯の生徒の数が30,000人に達したことからも、このプロジェクトの有効性は明らかになっています。さらには、新しい部隊が2016年に結成され、展示や創作教育などフォローアップ活動に注力しています。本プロジェクトは教育省から強力な支援を受けていますが、その一方で、課題となっている点は学校がコーディネーションに積極的でないことです。Meta Houseが実行している戦略は、教育省職員と一緒に直接学校とやりとりをすることで、こうしたプロジェクトが事務的な問題に悩まされることなく、確実に成功できるようにしています。結果、カンパニーは創作的・教育的なプロセスに注力できています。組織面では、Meta Houseはゲーテ・インスティトゥートの一部ではありませんので、Mesterharm氏はプログラム作成上の自由と柔軟性を得ています。さらに「学校演劇」プラットフォームを将来的に強化できるよう、Mesterharm氏はパートナーや演劇グループと一緒に仕事をしたいと考えています。

 同様に危険な状態に陥る可能性がある子どもたちや若者に安全で健康的な環境を提供するというビジョンを持って活動している団体にTiny Toonesがあります。そのジェネラル・マネジャーのShhort氏は「教育と創造活動を通じて、若者たちが自信を持ち、将来仕事に就けるよう支援することを目的に活動しています」と話していました。彼のパートナーであるKKによって2005年に設立されたTiny Toonesは、コミュニティに住む約100人の子どもたちに学習機会を無償で提供しています。内容は言語、数学、コンピューター、ダンスや音楽、芸術です。通学に40分以上かかる地域に住んでいる生徒には無償で交通手段も提供しています。これはどれだけTiny Toones が子どもたちに注力しているかを示しているだけでなく、生徒たちが地理的な制約なく教育を享受できるようにしています。Shhort氏によると、平等に機会を提供し、生徒たちが公教育システムに戻れるようにすることが目的だそうです。彼は門戸を広く開く方針を信じており、また、生徒たちはお互いから一番良く学ぶと考えています。したがって、生徒たちは一緒に学ぶ教室の安全な空間の中で、自分自身を表現するようしばしば促がされます。Tiny Toones の生徒たちは、これまでプロのヒップホップ音楽パフォーマンスやイベント、メディアで活躍してきました。現在、学校はAsian Community Trust や篤志家からの資金、また時折のファンドレイジングで集めるお金に頼っており、持続性は高くありません。社会企業的な戦略を取り入れ、最近、Tiny Toones The Cool Loungeという名前のバーを始めました。The Cool Lounge はダンススペースがあり、学校運営のためにさらなる資金を集められるようになっています。Shhort氏は生徒たちがさらに視野を広げられるよう、国際的な文化交流の機会を増やせたらと願っています。カンボジアの子どもたちの願いはゆっくりと変わってきており、海外での機会を見つけることに熱心になってきていると認識しています。

コミュニティ・ビルディング

 営利企業の事業構造を理解できたことのほかに、シェムリアップで励まされる思いがしたのは、完全に草の根で行われている強力な取組みを確認できたことでした。The Giant Puppet Projectを訪れ創作プロセス見ることができたのは良い体験でした。様々なNGOのリーダーシップのもとで、生徒たちやアーティストが2週間集中して巨大な人形を作り、通りをパレードする催しが年に1回行われています。アーティストのチームが人形のデザインをリードしますが、子どもたちも創造力を駆使して帽子や小道具などのアイテムを自己表現の一環で作ることが奨励されています。子どもたちは、こうした人形を作ることで工芸品の制作を学びますが、共同体験を通じ、他の人との協力やチームワークなどの目では見えないスキルも身につけます。この取組みでも、芸術を通じて子どもたちに力を与えたいという願いがあることが明らかでした。

 組織面では、従来型のトップダウン的な階層のあるスタイルにこだわるよりも、フラットな経営構造を目指しているとStewart氏は述べました。これは有機的成長と持続性を促すためだそうです。組織構造が柔軟であることで、メインアーティストやディレクターという立場を設けるよりも、そうした立場にある人にかかるプレッシャーを取り除くことができ、ほかのアーティストもリーダーシップを発揮することができると彼は感じています。加えて、アーティストが搾取されないように、プロジェクト報酬を支払っています。これは重要な点ですが、政府の介入を避けるために、このプロジェクトは独立して、非政府組織の力を頼りに、地元企業から資金・物品の支給を受け、また人々からの寄付をもとに運営されています。10年間にわたってパレードが続いていることを踏まえると、この方法は有効のように思えます。ひょっとすると、このプロジェクトが生み出した一番良い結果は、芸術・文化を何年にもわたって築き支える新しい観客を生み出していることかもしれません。Stewart氏曰く、過去の参加者が長年にわたってプロジェクトを支援してくれています。将来に向けての提案としては、子どもたちが自分で人形のデザインもできるようにすることが挙げられました。

持続可能性と空間

 政府による支援と資金提供がないがために、シェムリアップで活動する多くのグループが制約を被っており、「ホテル文化」の影響を強く受けていました。つまり、多くのグループが観光客に向けてホテルでパフォーマンスを行なっているということです。加えて、上演専用の場所も限られています。例えば、NCAはグループを持続させるための資金を得るためにホテルで上演していると言っており、Phare Bamubu Stageもまた、観光客が主要な対象観客層だと述べました。こうしたことは全て、これらグループが制作を行う環境が商業的な傾向にあることを意味しています。息が詰まるような観光客向け市場と決別したいという強い願いがある一方で、マーケット力学とこうした需要の性質が理由で、グループとして持続し生き残るためには困難が伴います。加えて、観客である観光客にひどく依存しているため、観光客の期待やニーズに応えるために上演作品が準備されることもあります。さらに状況を悪化させることに、パフォーマンスに対する需要は減っており、すでに悪戦苦闘しているグループの状況はさらに悪化しているのです。

伝統「演劇」と商業「演劇」の間

 プノンペンを訪問することで、私たちはCambodian Living Artsを訪れ、伝統芸能が置かれた状況と直面する課題について理解できました。踊りと歌を交えた伝統的な演劇形態の「ジーケ演劇」を保全していくことにCambodian Living Artsの人々が不安を感じており、また保全に注力していることもはっきりとわかりました。「ジーケ舞踊」として始まり、「ジーケ演劇」へと展開していったのですが、劇団は今、多くの場合、村落で何か機会がある際に呼ばれ上演を行なっています。観客の年齢層も子どもからお年寄りまでと幅広いです。しかし、需要がなく、技術を持った劇団がこの伝統を維持することはますます困難になってきています。加えて、この芸術様式を学びたいパフォーマーも少ないのです。「ジーケ演劇」を現代化する試みもこれまでになされてきた一方で、伝統的な太鼓の使用、歌や舞踊といった中核的な要素を意識的に保全する努力もされています。これは、本カンパニーが「ジーケ」がカンボジアのアイデンティティを象徴していると強く感じているためです。

 一方で対局にある「現代口語演劇」もまた、同様の困難に直面しています。Royal University of Fine Arts1958年に設立され、「現代口語演劇」のトレーニングを提供しています。現代口語演劇のモデルとなったのはフランス演劇の伝統で、カンボジア文化に合わせて現地化されています。「ジーケ演劇」同様、人気の低下に伴い、このプログラムも次世代の担い手を惹きつけるのに苦戦しています。現在の学生数は14人で、プロとして上演できるのは6人しかいないと知り、残念な思いがしました。こうした職業ではキャリアが築けないという偏見が社会にあり、また、収入が最大の問題です。結果、大半の人が「楽しみ」のために本業とは別に行なうつもりでいます。さらに、企業スポンサーや政府の支援がなく、アーティストたちがやる気を失っていることで、状況は悪化しています。

 こうした課題に取り組むために、伝統を生まれ変わらせ、現代化するトレンドが生まれているのも明らかでした。新しい世代の人々や観光客の観客に向けて、今日的な意味を帯びている作品を届け、カンボジア芸術をより親しみやすいものにするためにこうした努力は行われています。多くのグループ同様、Sophiline Arts Ensembleもまたアイデンティティや社会問題を取り上げています。グループのArtistic DirectorであるSophiline氏は新しい観客の注意を引きつけ、彼らとつながるためには、こうした芸術形態に新しい命を吹き込む必要があると話しました。グループの中心となる25人のダンサーとともに制作している作品は、UCLAで彼女が受けたトレーニングや西洋的なパフォーマンス制作の影響を受けています。こうした作品では、しばしば舞台装置や照明、衣装も用いている一方、伝統的な身体動作を維持しようとしています。

 Sovanna Phum Arts Association and Gallery25年の歴史があるグループで、人形を用いた影絵芝居を上演しています。彼らによると、他の大衆向け娯楽やメディアとの競争にさらされ、この芸術形態は消えつつあります。カンパニーは週に2-3回の上演を行なっていますが、主な対象はここでも観光客と訪問者です。観客の注意を引きつけ、彼らが理解できるようにするため、パフォーマンスには人形や踊り、仮面を取り入れています。私たちが鑑賞した作品からは、美しさや壮観さをストーリー性よりも重視している印象を受けました。こうした新しい創作アプローチ方法もまた、芸術が直面する社会政治的な課題に対応するために伝統的な芸術形態をどのように生まれ変わらせているかを示しています。

啓発とアクセシビリティ

 良い側面としては、認知を高め、啓発を行うために、カンパニーを超えて革新的なパートナーシップが結ばれてきています。例えば、Cambodian Living Arts は恵まれない子どもたちのために活動する財団のKrousar Thmeyと一緒に、視覚・聴覚障害を持った子どもたちが「ジーケ演劇」のトレーニングを受けられるようにしています。これは、社会的に認識を高めるための戦略です。生徒数は17人で、幅広い観客を対象に遠く離れた地方での上演を行なっています。伝統芸能に新たな命を吹き込んだだけでなく、恵まれない子どもたちを力づけ、農村地域で社会的なメッセージを広めています。伝統芸術とアドボカシー、そして恵まれない人々の支援活動を組み合わせるこの革新的な方法は、素晴らしい取組みであり、社会文化的な課題に応えるものです。

 Epic ArtsOnn Soknyも同じ気持ちを抱いていました。カンボジア人口の7%が障害を持っており、障害が理由で社会的な偏見に苦しんでいます。障害を持った人々はしばしば差別の対象となっており、平等な機会を与えられていません。結果、社会への統合が困難になり、フラストレーションと士気の低下をもたらしています。誰もに開かれたイギリスの「Arts for all」のモデル同様に、Epic Artsも現代芸術・演劇が、恵まれない人々の表現の自由とエンパワーメントを実現するプラットフォームとなると考えています。そうすることで、そうした人々が芸術面でも人格面でも成長できるだけでなく、社会にも影響を及ぼすことができます。本プログラムの期間は2年間で、地元や海外のカンパニーともコラボレーションした作品を制作してきており、成功をおさめています。結果、Epic Artのネットワークも広がり、社会的な影響の及ぶ範囲も効率性も高まってきています。

政府による資金提供と支援

 私たちの訪問先グループは全て、カンボジア政府は芸術に資金をほとんど提供していないと感じていると異口同音に唱えました。結果、多くのグループが存続のため、小口の助成金や個人寄付、ホテルでの上演に依存せざるをえません。ほとんどの場合、こうした資金や収入は不十分です。政府がこの分野での投資を行う意思を示していない理由としては、現在の経済的な制約や政治的な課題が考えられます。より規模が少し大きいPhareのようなカンパニーだけが組織の持続のために社会企業的な戦略を用いることができるのです。

 グループはまた、演劇の固有性や文化が今、限定的な状態だとも述べました。これは、人々が作品鑑賞のためにチケット代を出すという考え方を持っていないということです。一般的に人々は、伝統的な作品の上演は無料だと考えています。これはカンボジアでは歴史的にパトロン文化があり、上演経費がスポンサーによって全て支払われてきた経緯があるためです。加えて、こうした背景があるために、マーケティングや広報やチケット販売などグループを存続させるためのメカニズムがしっかり存在していないのです。

全体についての考察

 国内で「劇場」文化が限定的である背景を踏まえると、シンガポールやマレーシア、または創造活動が盛んな (西洋) 都市のほとんどでTYAが理解されているあり方がカンボジアにはほぼないように見受けられました。演劇と伝統芸能は様々な機会において幅広い観衆を対象に上演されていました。活動を持続させることを目的に、青少年向けのパフォーマンスを行うという意思をカンボジアのグループからはっきりと聞くことはありませんでしたが、TYAの根底に流れる原理原則は、何らかの定義が定着することなく、すでに存在していました。例えば、Sovanna ArtsPhare Ponleo Selpakといったグループは、チケット料金を支払った観客が着席した後、地元のコミュニティや子どもたちが無償で鑑賞できるようにしています。加えて、観客の少ない時期には、パフォーマーたちが友人を招待するように奨励されます。これが意味するところは、観客数を増やす活動がカンボジア文化の中でもすでに自然に現場主導の形で行われていることです。さらには、若い世代と一緒に芸術や教育の活動を行い、青少年を力づけることにとても強く力点が置かれていました。グループの大半の活動や取組みで「青少年と一緒に」「青少年によって」といった考え方が一目瞭然に見て取れました。また、Tiny ToonesPhare Ponleo Selpakといったグループは教育スタッフのほとんどが元生徒だと語っていましたが、これは芸術を用いることで良い影響が生まれ効果が表れていることを示しています。

 歌や踊り、芸術や工芸はカンボジア社会の豊かな歴史と文化の中に埋め込まれており、カンボジアの人々は生まれながらにして創造的で芸術家です。機会や資金が限られていることが理由で、芸術分野でのキャリアを追求できない人が多くいるというのは残念なことです。訪問先団体のリーダーの多くが地元コミュニティ出身者でないという点が観察されましたが、この点は独特です。どの団体も青少年を力づけるために芸術を用いるというポジティブなビジョンを持っていましたが、一方で地元コミュニティの人間がこうした組織のリーダーとして活動し、グループとして関与を深め、地元で得た知識を生活体験と結びつけていくために、今の組織構造を終わらせる出口メカニズムが存在するのだろうかと私は疑問に思いました。地元のアーティストたちが外から来た「リーダー」に指示や雇用、創作機会の面で強く依存してしまっていると現状を解釈することもできるでしょう。

 文化的な感性と芸術的に期待しているものがより近似していたシンガポールやマレーシアを訪問した際とは異なり、カンボジアとのコラボレーションには、決まった成果、ソリューションやモデルがありません。ひょっとすると、明らかなスタート地点は、青少年がアーティストとして成長し続けられるよう、空間や設備、器具を支援し強化することかもしれません。慈善活動ではなく、変革のために行うのです。調査訪問チームの目には、カンボジアの青少年が芸術を強く欲し、芸術に情熱を感じ、献身的であることがはっきりしていました。一歩下がって、アジアTYAネットワークの意義や機能、そして、どのようにネットワークを希望のネットワークに変えていけるかを考慮することも重要です。本質的に、パートナーシップが成功するのは、組織の間に結ばれた時ではなく、同じような考え方を持った個人の間に結ばれた時です。大多数の国々で文化が急速に変化していることを踏まえると、東南アジアのTYA関係者がコミュニティ、演劇、伝統、芸術活動、教育、青少年という複雑な文脈と「ゴチャゴチャした現実」に参加し関与し続けることが喫緊の課題となっています。理解者の声が複数上がり、理解の波とネットワークがあるときにしか、社会変化は起こりません。芸術教育の空間を設け、調査訪問のような活動によって交流を行うことで、異なる社会政治的な背景や歴史を持つ地域に対する視点が変わります。そうすることで初めて、私たちはこうした地域において2010年代に青少年向け演劇が担う役割を再考し、その役割に疑問を投げかけることも可能になるのです。

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Caleb Lee
シンガポール
インディペンデントプロデューサー・リサーチャー
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